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インスリンの血中濃度変化が肝臓内の分子を個別に制御していることを発見
-効率的な糖尿病治療に期待-
九州大学
東京大学大学院理学系研究科
概要
九州大学生体防御医学研究所の久保田浩行教授の研究グループは、東京大学の黒田真也教授との共同研究により、血中インスリンの濃度変化(血中インスリンパターン)によって肝臓内分子を個別に制御できることを明らかにしました。
インスリンは血糖値を減少させることのできる唯一のホルモンであり、その作用異常は糖尿病の発症に強く関係しています。インスリンは食後に分泌される「追加分泌」、平時から分泌されている「基礎分泌」、そして「10~15分周期」といった複数の血中インスリンパターンを示し(図)、インスリンの作用に重要であること、そして糖尿病との関連性が報告されてきました。しかし、その重要性の一方で、詳細なメカニズムは不明のままでした。
本研究では、実験とコンピュータシミュレーションを用いた解析により、インスリンがその血中パターンによって肝臓内分子を個別に制御できることとそのメカニズムを明らかにしました。これにより、これまで不明であった血中インスリンパターンの意義が分子レベルで明らかになりました。さらにシミュレーション実験から、糖尿病初期では肝臓内分子の応答を健常の応答と同じようにするために血中インスリンパターンを変化させていることが示唆されました。インスリンによる肝臓内分子の選択的制御メカニズムの解明により、今後のインスリンや糖尿病研究の理解と応用が期待されます。インスリンのように多くのホルモンは、それぞれのホルモン依存的に特徴的な血中パターンを示します。つまり、本研究で明らかにした血中パターンによる肝臓内分子の選択的制御は多くのホルモンに共通する一般的なメカニズムだと考えられます。本研究の成果により、今後、多くのホルモンの研究や効率的な投薬などに役立つことが期待されます。
本研究は2018年6月28日(木)午前0時(日本時間)に「Cell Systems」に掲載されました。
図:インスリンの血中パターンは複数からなり、肝臓内の分子を個別に制御できることが明らかになりました。肝臓内分子のpS6KとG6Paseはそれぞれ追加分泌と基礎分泌特異的に、pGSK3βは全ての分泌パターンに応答できます。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―