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衣川智弥氏の平成30年度文部科学大臣表彰若手科学者賞 「初代星起源コンパクト連星からの重力波についての研究」受賞

衣川智弥氏
衣川氏は金属量がゼロの宇宙で最初に生まれた初代星の連星の進化を計算する数値計算プログラムを2014年に世界で初めて完成させた。計算精度が1%-6%のこのプログラムを用いて、衣川氏は100万体の初代星連星からなる計算をした結果、現代の星では主に連星中性子星が形成されるが、初代星では主に質量が太陽質量の30倍くらいの連星ブラックホールが形成され、重力波放出によって現在合体するという重要な結果を得た。この重力波は稼働中の米国のLIGO等のレーザー重力波干渉計で検出可能な頻度と強度を持つことも示された。衣川氏は2105年6月に大阪で開催された国際会議GWPAW2015でこの重要な結果を口頭発表した。衣川氏の発表は会議の総括討議でも大きく取り上げられ、2015年9月から始まるLIGOの観測で、検出されるだろうと予言された。驚くべきことにLIGOが2016年2月に記者発表した重力波の初検出は、2015年9月14日に起きた重力波イベントGW150914で、予言通りの9月であった。しかも、LIGOの初検出の論文中にも、「驚くべきことに、GW150914の質量は2014年に衣川達が予言した質量に一致する。」と高く評価されて引用された。
衣川氏は修士2年の4月頃に、日本でやっている人が少ない連星進化のモンテカルロ計算を共同研究者と始めた。衣川氏がコード建設の途中結果を報告するゼミを何回もした結果、金属量がゼロの初代星は世界中で誰も計算していないことが解った。衣川氏が主に数値プログラムの建設と計算を実行し、共同研究者は数値結果の解析等を行った。初代星起源を確立するには、赤方偏移が10くらいの初代星のイベントを検出する必要があるが、それには宇宙重力波干渉計DECIGOを建設する必要がある。衣川氏はDECIGOでのイベント率を計算して年間10万イベント程度になることを示した。なお、受賞者の中で衣川氏は最年少の30歳であった。
平成30年度文部科学大臣表彰
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/04/1403097.htm
(文責:京都大学名誉教授 中村卓史)
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―