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RIビーム減速・収束装置OEDO完成式典を開催いたしました
東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター
東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター(CNS)は、理化学研究所 (理研) 仁科加速器研究センターの協力のもと、ImPACT藤田プログラムの課題である「核廃棄物にふくまれる長寿命核分裂生成物(LLFP)の核データ取得」プロジェクトを推進するため、その基幹装置であるRIビーム減速・収束装置OEDO*を完成させ、LLFPに対する新しい核データの取得を始めました。
本装置の完成を記念し、平成29年12月19日(火)16:00より、理化学研究所RIBF棟2階大会議室に於いて完成式典を開催いたしました。式は下浦享 CNSセンター長の挨拶で始まり、建設に携わった今井伸明准教授よりOEDOについての解説がありました。
さらに延與秀人 理研仁科加速器研究センター長、藤田玲子 科学技術振興機構 ImPACTプログラムマネージャーから祝辞をいただき、武田洋幸 大学院理学系研究科長から挨拶がありました。後、参加者全員で集合写真を撮影、施設見学が行われました。
今後、本装置を活かし、これまで困難であった核データ取得や新しい核物理学研究を始めとするRIビームによる科学技術の一層の発展を目指します。
* Optimized Energy Degrading Optics for RI beam の略
OEDOプロジェクト 解説
◆研究の目的
OEDOプロジェクトは、東京大学大学院理学系附属原子核科学研究センター(CNS)で目指している「自然界に存在するさまざまな物質がどのように生まれどのように進化してきたのか」という基本的な課題へのとりくみの一つで、基幹装置「RIビーム減速・収束装置OEDO」を用いてこれまで困難であった領域におけるさまざまな原子核の核種変換反応の測定を可能とするものです。原子核物理学の基本的課題の解明とともに、また、ImPACT藤田玲子プログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」の一環として放射性廃棄物の核変換技術の基礎となる多様な核反応データ取得を目的としています。
◆プロジェクト概要
東京大学大学院理学系附属原子核科学研究センターは、東京大学と理化学研究所の包括的研究協定のもと、理化学研究所仁科加速器センターと共同でRIビームファクトリー(RIBF、図1)施設を用いた原子核科学の研究を推進しています。
図1 理研 RIビームファクトリー鳥瞰図
天然には安定に存在しない不安定原子核(RI)をビームとして生成し、再び原子核反応させ、さまざまな原子核の性質を調べる手法は、1980年代に日本人グループにより始められ、現在の原子核物理学研究の主要な実験手法となっています。世界中の多くの研究所のさまざまな施設で研究がすすめられていますが、RIの質量数(重さ)とビームエネルギーの組み合わせでみたとき、質量数が60程度以上で核子あたりエネルギーが数MeVから数10MeVの領域が空白となっていました(図2)。実際、RIBFは高エネルギーの一次ビームを用いることで、ビーム核種の種類と強度の点で世界最高性能を誇っていますが、反応測定が可能な領域は核子あたり100 MeV程度以上に限られていました。
図2 世界におけるRIビーム施設で生成可能なRIビームのエネルギーと核種の領域
本プロジェクトは「RIビーム減速・収束装置OEDO」により、この限界を突破し、空白地帯で予想されるさまざまな核変換反応の測定を実現させることで、原子核物理研究を推進するものです。また、OEDOで可能となる質量数の領域は、放射性廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)を含んでおり、LLFPをビームにした核種変換反応の測定により核変換技術の基礎となる核反応データ取得を実現可能としました。
◆RIビーム減速・収束装置 OEDO
OEDOプロジェクトの基幹装置である「RIビーム減速・収束装置OEDO」(図3)は、RIビームファクトリーで作られる光速の60%程度の速さで飛行するRIを光速の30%~10%に減速し、RIを1点に収束するための装置です。この装置の下流に標的を置いて、減速されたRIと標的との原子核反応を測定します。
図3 RIビーム減速・収束装置(OEDO装置)
OEDO装置は、減速部と収束部から構成され、図4で示すビームラインに組み込まれています。
図4 OEDO装置を含むビームラインの構成。OEDO装置は、減速部と収束部からなる。減速部には楔形のエネルギー減衰板を設置、収束部では高周波偏向装置とSTQ(三連超電導四重極磁石)と、Q(常伝導四重極磁石)により反応測定用試料上にビームを収束させる。
減速部には、RIを減速するための楔形のエネルギー減衰板が設置され、その厚さを調整することでRIを目的のエネルギーまで減速します。収束部では、サイクロトロン加速器と同期して変動する電場を発生する装置(高周波偏向装置)が設置され、RI生成時に生じるRIのエネルギー差に由来する収束位置のずれを補正して、集束磁石(STQとQ)を使って試料の位置で小さなビームスポットに収束させます。
◆OEDOの性能評価とLLFPに対する核データ取得
OEDO装置は平成29年3月に建設が完了し、6月に性能評価が行われ、LLFP核種であるパラジウム107、セレン79の低速化に成功しました。10、11月には、これら2核種の他に、LLFP核種であるジルコニウム93に対する核反応の測定にも成功し、核変換技術の基礎となる核反応データが取得されました。
プログラム・マネージャーのコメント
ImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」では、高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)を加速器による新しい核変換の経路を実現することにより、廃棄物をリサイクルして資源化する方法を提案することを目指しています。加速器により核変換を効率的に行うためには種々の入射エネルギーにおける放射性核種の核変換のデータを取得する必要があります。理研のRIBFを用いるとLLFPのビームを作製できることから放射性のターゲットを準備しなくても測定することができます。今回はRIビーム減速・収束装置OEDOを完成させました。OEDOにより高エネルギーのビームを減速させることができるようになり、低速の領域を含むあらゆる入射エネルギーの核変換のデータを取得することができるようになりました。本成果は、高レベル放射性廃棄物の低減・資源化へ向けた大きな1歩になると考えています。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―