2017/08/23

SACLAの得意とするX線波長でタンパク質微結晶の新規構造解析に成功

 

京都大学大学院薬学研究科

東京大学大学院理学系研究科

高輝度光科学研究センター

理化学研究所

大阪大学大学院工学研究科

 

概要

中津亨 京都大学大学院薬学研究科准教授、山下恵太郎 理化学研究所基礎科学特別研究員、岩田想 理化学研究所グループディレクター、中根崇智 東京大学大学院理学系研究科特任助教、溝端栄一 大阪大学大学院工学研究科講師、登野健介 高輝度光科学研究センターチームリーダー、湯本史明 高エネルギー加速器研究機構特任准教授による合同研究チームは、SACLAの非常に強力な高エネルギー(短波長) X線を用い、常温においてセレノメチオニンを導入したACGとStemという二種類のタンパク質のμmサイズの結晶から構造を決定することに成功しました。SACLAや米国のLCLSといった強力なXFEL施設の整備に伴い、μmサイズの結晶を用いたタンパク質構造解析も行われてきましたが、既に類似のタンパク質の構造が判明しているタンパク質の解析例が多く、構造が全く不明なタンパク質の解析はあまり行われてきませんでした。

現在世界で稼働しているXFEL施設の一つであるSACLAは、SPring-8のような放射光施設に比べ約10億倍明るいX線を1秒間に最大60回、100兆分の1秒以下のパルスで出力することができます。したがって、従来は超低温で行われていたμmサイズの構造解析が常温で行えるようになってきました。

今回、研究グループでは、立体構造が未知である場合において、原子の異常分散効果のみを用いて構造解析する単波長異常分散法(Single-wavelength Anomalous Diffraction, 以下SAD法)を用いて、2種類のタンパク質の微結晶から構造決定を行いました。SAD法では一般的にメチオニンというアミノ酸を、解析の目印となるセレンを含むセレノメチオニンに置き換えたタンパク質結晶を用います。SACLAは、セレン原子の異常分散効果を利用したSAD法に必須の約13 keVという高いエネルギーのX線を安定に発生させることができるように設計されています。今回はSACLAの特徴をうまく活かしてセレンがどこに位置しているかしっかりと確かめることができました。そのため、最少でわずか13,000枚のX線回折イメージから構造解析可能なデータセットを取得できました。今後SACLAを使うことで新規タンパク質微結晶の迅速なX線結晶構造解析が可能であることを示唆する結果です。

本研究の成果は、英国の科学雑誌IUCrJに平成29年8月10日にオンライン出版されました。

図:Stemの微結晶

 

詳細については、京都大学のホームページをご覧ください。
 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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