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直径100 mの気球で天体からの硬X線の偏光情報を世界初検出
国立大学法人 広島大学
国立大学法人 東京大学大学院理学系研究科
国立大学法人 名古屋大学
学校法人 早稲田大学
概要
このたび、広島大学大学院理学研究科の高橋弘充助教、宇宙科学センターの水野恒史准教授、東京大学大学院理学系研究科釡江常好名誉教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所田島宏康教授、早稲田大学理工学術院先進理工学研究科片岡淳教授ら、日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループは、パルサー星雲である「かに星雲」からの硬X線放射の偏光観測を実施しました。広島大学と東京大学大学院理学系研究科は検出器の組み上げと大気球の運用を、名古屋大学は読み出し回路、早稲田大学は光センサーの開発を中心となって行いました。
偏光観測は、イメージとして見ることのできない天体の磁場情報や、イメージでは空間分解できないようなミクロな構造・物理を調べることができる強力な手段であり、イメージ、タイミング、エネルギー測定とは相補的なプローブです。しかし、とくにX線やガンマ線の観測では検出器の技術的な困難などから精度の良い偏光観測はほとんど実施できていませんでした。
研究グループでは、直径100mにも膨らむ大気球を2011-2016年の3回にわたってスウェーデンから放球し、検出器の性能を向上させてきました。人工衛星に比べ気球実験は、新規探索のサイエンスに向いている、最先端の技術を利用できる、経験に基づいて改良を加えられるという利点があります。まさにこのメリットを活かし、昨年の3回目のフライトで、硬X線の帯域において世界で初めて信頼性の高い偏光情報を得ることに成功しました。この結果は、これまで観測されていた1桁エネルギーの低いX線の偏光情報とおおむね一致するものでした。
硬X線を放射している宇宙線は、X線の場合に比べてエネルギーを失ってしまう寿命が1/3と短い(3年)ため、「かに星雲」のより中心(パルサー)に近い領域から放射されていると考えられます。今回の偏光の観測結果は、パルサーに近く磁場の向きが整ったままである(偏光度も高い)と予想されていた場所において、すでに磁場の向きが乱れていることを示すものです。今後は、「ひとみ」衛星をはじめ、他の衛星の観測結果や理論研究から、磁場構造などのパルサー星雲の描像が明らかになり、どのように高エネルギー宇宙線が加速されているのか、について理解が進むと期待されます。
またPoGO+グループでは3回目のフライト中に、「かに星雲」に加えブラックホール連星系「はくちょう座X-1」の偏光観測も実施しています。この観測結果からも、恒星からブラックホールへ降着する(吸い込まれていく)物質の幾何学的な構造を明らかにすべく、データ解析が進められています。
本研究は、JSPS科研費JP23740193、JP25302003などサポートを受けて行われ、また米国SLAC国立加速器研究所、東京工業大学、宇宙科学研究所(JAXA)からも多大な支援をいただきました。
本研究成果は、ロンドン時間の2017年8月10日(木)10時(日本時間:2017年8月10日18時)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。
図:40 km上空からのカメラ写真(スウェーデン宇宙公社より)
2016年7月のフライト時に、大気球により上空40 kmの成層圏から天体観測を実施している様子。(右下)PoGO+の硬X線偏光検出器と気球ゴンドラのフレーム、(左上)宇宙空間と地球の地平線が丸く写っています。この高度では大気が非常に薄いため、天体からの硬X線が大気に吸収されずに観測することができます。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―