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深海チャートに記録された、天文学的周期に伴う中生代温室地球の陸域環境変動−超大陸パンゲアのメガ・モンスーンが関与か?−
静岡大学
東京大学大学院理学系研究科
概要
静岡大学の池田昌之助教と東京大学大学院理学系研究科の多田隆治教授、ジョージア工科大学の尾崎和海博士らの研究グループは、中生代三畳紀〜ジュラ紀(約2億5千万年前〜1億8千万年前)の地球軌道要素の周期的変化「ミランコビッチ・サイクル」に伴う日射量変動が、気候変化を介して、全球の大陸風化に影響したことを明らかにしました。大陸風化は、地質学的時間スケールでの大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の削減、ひいては気候を制御する重要な要素ですが、その変動要因について議論が続いていました。
研究グループは、まず地質調査と化学分析を行い、深海チャートから推定した生物源シリカ(SiO2)の堆積速度が、現在の全海洋量の90%にも相当する莫大な量に相当したことを示しました。この結果から、本研究で推定された生物源シリカ堆積速度は、海洋への溶存態シリカのの滞留時間(数万年)以上の時間スケールでは、その主要供給プロセスである、大陸風化速度の新たな指標となる可能性を示しました。さらに、物質循環モデル(改良版GEOCARBモデル)を用いて計算した大陸風化速度変動が、本研究の推定と大局的に一致していたことからも、この仮説は支持されました。
さらに、推定された生物源シリカ堆積速度は、ミランコビッチ・サイクルとして知られる10万年から3000万年周期で約2〜5割も変動しましたが、日射量そのものに比べ有意に大きな振幅で変化したことが分かりました。この原因として、当時存在した超大陸パンゲアで形成された大気循環「メガ・モンスーン」に伴う大規模な降水量変動によって、大陸風化速度変動が非線形的に増幅された、という仮説を提唱しました
これらの結果は、大気CO2濃度が現在の数倍もあった中生代温室地球における地球システムの応答を解明する上で重要な成果と言えます。
本研究は、JSPS科研費09J08755「特別研究員奨励費」、 JP 2680026「若手研究(B)」およびJP 20150889「海外特別研究員制度」の助成を受けたものです。
本研究成果は、英国Nature Publishing Groupの科学誌『Nature Communications』に、日本時間6月7日(水)にオンライン公開されました。
図:三畳紀の古地理図と深海チャートやメガ・モンスーン地域の分布。古地磁気学的研究によると、当時の深海チャートは中低緯度深海域(赤色部)に分布しました。 超大陸パンゲアのメガ・モンスーンにより、降水量が多い熱帯収束帯(ITCZ)及び夏モンスーンによる雨期の地域の分布(青線部) の年間南北移動幅が大きく変動します。この移動幅が、ミランコビッチ・サイクルに伴いさらに変動し(水色部)、乾燥していた地域が急激に湿潤化した結果、 日射量変動が与える影響が非線形的に増幅されて、全球の大陸風化速度が大きく変動しました。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―