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高木俊輔准教授が平成29年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞

高木俊輔准教授
数理科学研究科の高木俊輔准教授が平成29年度科学技術分野の文部大臣表彰において若手科学者賞を受賞されました。一同僚として喜ばしい限りです。受賞業績は「正標数の手法を用いた双有理幾何学に現れる特異点の研究」です。
高木俊輔先生のご専門は代数幾何学、特に代数多様体の特異点の研究です。
代数多様体とは有限個の多項式系の共通零点集合として定まる図形あるいは射影空間内でコンパクト化してできる図形のことです。その双有理同値による分類が究極の目標であり、極小モデル理論はその中核です。代数閉体である複素数体上で考えることが多く、代数多様体には幾何学的側面と方程式系という代数的側面があります。例えば、特異点がなければあるいは特異点を解消してしまえば、代数多様体は複素多様体として研究できることになり、多変数複素関数論、計量、トポロジーといった幾何学的道具が使えることになります。小平消滅定理はその顕著な応用です。これは幾何学的側面のひとつです。他方、方程式系でみれば、特異点は式のまま扱えます。また登場する多項式は有限個しかないため、代数多様体は整数全体のなす環に多項式系に現れる係数をすべて付け加えてできる環(整数環上有限生成な環)R上の多項式系の研究とも言えます。例えば、整数の素数pによる余り全体は自然な和と積で体となりますが、より一般に、Rの極大イデアルによる剰余類を考えることで、多項式系から正標数pの体上の多項式系(正標数還元といいます)が得られます。極大イデアルをいろいろ変化させて正標数還元の情報を集めることで、もとの多様体の構造を調べようというのは自然な発想です。正標数pには、同じ数をp回たすと零になるという有限的な側面があります。より深いレベルでは、p乗してから和をとっても和をとってからp乗しても同じになるという性質があります。従って、p乗写像(フロべニウス写像)は環準同型写像となります。フロべニウス写像は、有理数体や複素数体といった標数零の世界には存在しないとても不思議で極めて有用な写像です。極小モデル理論の源泉の一つである、森重文教授によるハーツホン予想の解決でもこの発想とフロべニウス写像は本質的でした。これが代数的側面の一つです。
高木俊輔先生のご専門は、後者の正標数還元とフロべニウス射を用いた代数的方法による代数多様体の特異点の研究です。極小モデルには自然に特異点が現れるため、特異点理論は極小モデル理論において極めて重要です。中でも、川又対数的末端特異点(klt)と呼ばれる、因子との対に対して定義された特異点のクラスは極小モデル理論において核となる最重要特異点クラスの一つです。高木俊輔先生のお仕事は極めて多岐にわたりますが、印象的かつ重要なお仕事のひとつに、因子との対に対する判定イデアルの導入とその基本的性質の確立、その顕著な応用の一つである、川又対数的末端特異点(klt)の正標数還元とフロべニウス射を用いた特徴付け(原-渡辺予想の肯定的解決)があります。このお仕事はHacon,Cascini, Schwede, Mustata, Karen Smithといった現代双有理代数幾何学の中心的な研究者にも引用されるなど、世界的にも大きな影響を与えています。
高木俊輔先生の益々のご活躍を期待しています。ご受賞おめでとうございます。
平成29年度文部科学大臣表彰
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1384228.htm
(文責:数理科学研究科 教授 小木曽啓示)
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―