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鳥類の進化に関わったDNA配列群を同定―鳥エンハンサーの発見―
東北大学大学院生命科学研究科
東京大学大学院理学系研究科
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
概要
鳥が恐竜の一部から進化したことは確実視されていますが、羽毛やクチバシなどの鳥らしい特徴をもつようになった仕組みはほとんどわかっていませんでした。東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授のグループは、東京大学の入江直樹准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の関亮平研究員・城石俊彦教授、ならびに中国BGI・コペンハーゲン大学らの国際共同チームにおいて、48種の鳥の全ゲノムDNAを他の動物のゲノムと比較することにより、鳥らしさをもたらしているDNA配列を探しました。解析の結果、鳥へと進化する過程において、新しいタンパク質を作る配列(または遺伝子)の獲得はほとんどなく、鳥への進化には、むしろ遺伝子の使い方を変えたことが決定的な役割を果たしたことが明らかになりました。遺伝子の使い方を決めるDNA配列のことを一般的に「制御配列」と呼び、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりします。研究チームが見つけたのは、スイッチをオンにする鳥特有の制御配列、すなわち鳥エンハンサー(*)と言えます。例えば、今回見つけた鳥エンハンサーの1つは、ある遺伝子(Sim1遺伝子)を、風切羽の作られる翼(前肢)ではたらくようにしていることが明らかになりました。さらなる解析の結果、Sim1遺伝子が翼の風切羽だけでなく尾羽が形成される領域でもはたらいていることもわかりました。Sim1鳥エンハンサーはまだ恐竜がいた頃の時代に獲得されていた可能性が高く、風切羽と尾羽が同時に恐竜で進化していたというこれまでの知見と合わせて考えると、このような鳥エンハンサーを使って恐竜も風切羽や尾羽を進化させていた可能性があります。
このように、鳥の進化過程において新しい遺伝子の獲得はほとんどなく、既にもっていた遺伝子の使い方を変えることで、鳥らしい特徴を進化させてきたことがわかりました。鳥の進化に決定的に重要だったのは、新しい遺伝子ではなく、既にもっていた遺伝子の新しい使い方だったのです。
(*)エンハンサー:遺伝子の使い方を決めるゲノムDNAのひとつ。この配列があることで、遺伝子がいつどこでどれくらいのタンパク質を作り出すかが決められる。
図:鳥類48種のゲノムと鳥類以外の動物9種のゲノムを比較することで、鳥だけがもっているDNA配列を特定したところ、そのほぼ全て(99.69%)がタンパク質を作らないものであった。 また、そうした DNA配列の1つが鳥の飛翔能力に重要な風切羽の形成に関与していることが明らかになった。
本研究成果は、Springer Nature (UK)発行のonline科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』 (Nature Communications) において2月6日午後7時(日本時間)に発表されました。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―