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物質と宇宙の究極への挑戦-素粒子物理学はどこへ向かうのか-
祝・ 2015ノーベル物理学賞
素粒子物理学の分野で、日本はどのような貢献をしているのか? 素粒子物理学と宇宙論・天文学との関係は? KEKB加速器での実験やニュートリノに関する実験に長年携わってきた理学系研究科長*1の相原博昭教授と、 CERNのLHCでヒッグス粒子の探索を進めてきた浅井祥仁准教授*2に話を聞いた。
*1*2ともに取材当時
(左から)横山広美准教授、浅井祥仁准教授*2、相原博昭教授
ヒッグス発見後の素粒子物理学の目標
横山 ● 今回この本では、本学理学部の素粒子と宇宙に関する先生方に、いくつかのトピックスを紹介いただきました。素粒子物理学の分野では、巻頭特集でも紹介したヒッグス粒子の発見が大きな話題になっています。まずはヒッグス粒子発見後の目標についてお話をお願いします。
浅井 ● ヒッグス粒子の発見には2つの大きな意味があると思っています。1つ目は、標準理論で考えられているよりもヒッグス粒子が軽いことです。ヒッグス粒子が軽いということは、何らかの理由で軽くしているメカニズムがあるはずなのです。そのメカニズムを見つけるというのが大きな課題の1つです。もう1つは、ほかの素粒子とは違って、ヒッグス粒子は真空と密接に結びついています。ほかの素粒子は物質をつくっていたり、力を伝えたりするものでした。それに対して、ヒッグス粒子は真空と結びついている初めてのものです。真空がどうなっているのか、それはダークエネルギーとか、宇宙がどうして誕生したのかといったことにも密接に結びついています。
横山 ● ヒッグス粒子が軽いメカニズムを見つけるというのは、どのくらいのタイムスケールでのお話なんでしょうか。
浅井 ● それは今も鋭意やっています。LHCは2012年いっぱいでいったん運転を停止して、2014年の秋に実験を再開する予定です。その時にはエネルギーがほぼ倍になっていますので、そこで大きなチャンスがあるのではないかと思っています。ですから2015年くらいにもう1つ大きなニュースを皆さんに伝えることができたらなと思っています。
相原 ● それは超対称性理論の話ですね。ヒッグス粒子発見後は、超対称性の探索が非常に大きな研究テーマになってきます。超対称性が見つかるとダークマターの正体もわかりますし、力の大統一も可能になります。さらに大きなことが期待できます。素粒子と時空とを結びつける、一番有力な概念が超対称性なんです。ヒッグス粒子が軽いメカニズムから、非常に大きな収穫が得られるかもしれません。
日本が素粒子物理学の中心の1つ
横山 ● 素粒子実験の世界で、日本はどれくらいすごいのでしょうか。アメリカは今少し停滞している印象で、素粒子実験の世界を引っ張っているのは日本とCERNが中心になっているとうかがっていますが。
浅井 ● 標準理論の次に何があるのかを探る方法には実は2種類あって、日本とヨーロッパではアプローチの仕方が違います。1つ目の方法とは、より高いエネルギーを直接実現することです。これはヨーロッパのアプローチで「エネルギー・フロンティア」と呼ばれます。もう1つの方法は、エネルギーは高くないけれども素粒子を大量につくり出して精密に測定をすることで探っていこうというアプローチがあります。これは「インテンシティ・フロンティア」と呼ばれます。日本は2つ目のアプローチをこれまでしてきました。日本のやり方は、「力任せではない」と言ってよいかもしれません。
相原 ● 神岡でもKEKBでも、日本は小さなところからスタートして大きく育てるのが得意です。そういう特徴を出しながら、CERNとの新発見競争に臨んでいます。日本の素粒子物理研究は、約40年間かけて大いに発展し、世界のトップレベルになっています。結果的には、力任せではないという、日本的なやり方が良かったということになります。
浅井 ● 繊細なアプローチともいえますね。
相原 ● あるいはゲリラ的といってよいかもしれません。
横山 ● なぜ日本の素粒子は、ここまで成功してきたのでしょうか。
相原 ● その理由は日本の素粒子物理研究の歴史にも関わっていると思います。日本では、湯川秀樹、朝永振一郎両先生のノーベル賞受賞をきっかけに、たくさんの優秀な若い人が、両先生にあこがれて素粒子物理の分野に進みました。その背景には、数学や物理に強い日本の伝統があったと思います。東大理学部出身のノーベル物理学賞受賞者、南部陽一郎先生もその1人です。理論家を目指す研究者と同時に、実験家を目指す人たちも現れました。ニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生や高エネルギー物理学研究所(KEK)をつくり、その所長を長く務められた西川哲治先生などがそうです。この先生たちは、日本の素粒子実験研究の第一世代です。その後、その伝統が東大物理教室の第2世代の先生たちに引き継がれ、現在第一線で活躍されてる浅井先生たちは第3世代ということになりますね。第1世代は非常に苦労が多かったと思います。
浅井 ● そういった方たちの積み重ねは大きいですね。私たちの世代は正直に言って、彼らが引いた線路を走っているだけなんです。その意味で楽だったといえるんですが、これからは我々がILCを誘致したりとか、さらにその次にどうなっていくかということを考えていかなければなりません。
相原 ● 理論の伝統と実験の伝統が基本としてあって、それにプラスして、企業の技術力が大きな役割を担ってきました。それらがうまくマッチした時代があったということです。特に1980年代にそれが非常にうまくいったので、ここまで来れたのではないかと思います。我々は、次のプロジェクトを継承しなければいけません。その一番の候補としてILCがあり、ハイパーカミオカンデのような大プロジェクトがあるわけです。これらを実現できるかどうかが浅井先生の世代の人たちの肩にかかっています。
日本における今後の素粒子実験
横山 ● 日本では現在T2K実験が行われていて、SuperKEKB計画も進行中です。それらの成果も含めて、今後数年でどういう展開になっていくのでしょうか。
相原 ● T2K実験からは、ニュートリノの世界で粒子と反粒子のちがいがあるかどうか、つまり、CP対称性が破れているかどうかがわかるはずです。ニュートリノと反ニュートリノの間に違いがあるとすると、反物質が宇宙に存在しない理由につながっていくかもしれません。数年ではわからないにしても、長期的には大いに可能性があります。それが将来へ向けた実験の大きな目標です。現在でもニュートリノ物理に関しては日本が世界のトップなのですが、次のハイパーカミオカンデも含めた将来計画でみても、ニュートリノ物理に関しては世界のトップであり続けることになるでしょう。KEKBも、インテンシティ・フロンティア、超精密実験の分野として現在すでに世界一なのですが、建設中のSuperKEKBが完成すると、そのまま世界のトップを保ち続けることになります。
横山 ● ILCも、その流れを汲んでいるのでしょうか。
浅井 ● 日本は今まで、インテンシティ・フロンティアのアプローチをしてきました。ニュートリノでもそうです。それをヒッグス粒子についてもやろうというのがILCの位置づけだと思います。ある意味で本当に日本的なアプローチなんですね。ILCというのは、今まで日本がやってきた研究スタイルの延長というか、日本の技術力と同時に日本の研究スタイルなのではないかと思います。
相原 ● ニュートリノもヒッグスも、KEKBで行っていることも、最終的には「真空を理解する」ということなんですね。真空は素粒子物理から見ると空っぽではなくて、目には見えないけれど豊かな構造があるのだということがヒッグスで発見できました。量子力学からいろいろな意味でわかってきてはいたんですが、ヒッグスで明白になったということなんです。そういうことと、ニュートリノから探っていく新しい相互作用などがつながっているに違いないと考えているわけです。真空がよく理解できれば、そこにある仕組みもわかるようになります。今の理論では説明できない仕組みがあることはすでにわかっていますから、そこがいずれは結びつくだろうという期待があります。ただそこに行くまでは大変で、その1つとして超対称性などの有力な理論は出てきているのですが、それが本当に正しいかどうかはまだやってみないとわかりません。もしかしたら、全然違う話になってしまうかもしれません。
浅井 ● その方が面白いですね。
相原 ● 研究というのはある方針を持って進めないといけません。でも、やってみたら全然違うところに行き着くということも、しばしばあることなんですね。
国際協力が不可欠な分野
横山 ● LHCでの実験でも、非常にたくさんの国の人が参加していらっしゃいます。素粒子実験では国際協力がとても大事なことだと思うのですが。
相原 ● もちろん国際協力はとても重要です。素粒子物理学の実験は、日本だけでやっていればよいというわけではないというか、日本だけでやっていても発展しない分野なんですね。
浅井 ● お互いの強みを持ち寄って、それぞれに国際協力していくという形ですね。LHCでは古河電工のケーブルとか、IHIの冷却システムとか、本当にいろいろな企業の技術力があったからこそ実現しています。もちろん企業だけでなく、人的な貢献や資金面での貢献もあります。日本にILCを誘致しようということになると、人や技術のサポートを国際的に求めていくことになります。今はもう世界は1つですから、お互いにサポートし合うような形で進んでいきます。
相原 ● 素粒子物理学は最初から国際的なんです。巨大な加速器はどこにでもある設備ではありません。どこかの国でつくられたら、その国の人だけでなく、世界中の人々に使ってもらう。加速器という世界最先端の設備を世界中の優れた研究者に使ってもらうほど良い成果が出るという信念から、設備を完璧にオープンにして、使いたい人が自由に使えるという体制を整えて来ました。日本でも、小柴先生などの第1世代の先生方は、そういった方法を最初から研究スタイルとして取り入れていました。後から入ってくる学生にとってはそれが当たり前なんですね。最初から国際的にやるものだという分野になっています。この分野の特徴ではないでしょうか。
横山 ● つくった国の人だけではなく、各国の人が自由に使えるような組織づくりを、国際協定をつくって世界的に整えていったということが大きなポイントですね。
相原 ● 自分たちがつくったものを他人に自由に使わせるというのは、そんなに簡単ではないですよね。ある特定の人に限定する方が普通かもしれません。しかし素粒子物理の研究の場合には、最初から世界に開いた形でやりますという合意ができていました。
素粒子物理学と宇宙論、天文学との連携
横山 ● 素粒子物理の先端は宇宙論や天文学と密接な関係になってきていることは、若い世代にとって大きな魅力だと思います。宇宙との関連や宇宙研究者との連携といったところをお話いただけますか。
浅井 ● ヒッグス粒子が見つかったということは、インフレーションの証拠ですね。残念ながら直接の証拠ではありませんが。
相原 ● 真空の中にエネルギーが満ちているということですね。
浅井 ● ヒッグスとは何かというと、真空の中にモノがあったということです。実は、今回見つかったものとはちがうんですが、別のヒッグス、色がついたヒッグスがたぶんあるだろうと思われていて、それがインフレーションやビッグバンを生んだと思われています。そういう意味で、真空にモノが詰まっていて、その状態が変わる(相転移)ことによってエネルギーになるのだということの証拠となったのが、ヒッグスの発見なのです。だから、直接ではないのですが、アナロジーでそういうことを説明できるという証拠を得たということです。その意味で、宇宙論に直接つながっていく成果だろうと思います。
相原 ● 宇宙というのは、ほとんどが真空です。しかし実際にはその真空というのは、空っぽではなくて何か見えないエネルギーがある。ヒッグス場という、見えないけれどもエネルギーの元みたいなものが満ちているということがわかったんですね。
横山 ● インフレーションの証拠というのは。
浅井 ● 宇宙論的な証拠はいくつかあったんですが、素粒子実験の方からようやく1歩目をサポートする結果が出たというのが、今回の発見ですね。残念ながら直接的な証拠ではありませんが、アナロジーとしては説明できるんです。
横山 ● CERNでの発表の後、宇宙論の先生方からはどんな反応がありましたか。
浅井 ● 佐藤勝彦先生はとても喜んでくれましたね。真空の状態が変わることによって宇宙が誕生、進化してきたのだというのが今の宇宙論のメインストリームです。ビッグバンがあって、真空が相転移することでいろいろ進化してきたというパラダイムがつくられてきました。ただし別の解釈もありえます。ヒッグス粒子の発見は、真空が相転移するという宇宙論の根幹を示したことになりますから、宇宙論的には意味があることだと思っています。
横山 ● 相原先生の研究室で、すばる望遠鏡の共同プロジェクトをやっていらっしゃるということがとても印象的です。すばる望遠鏡を使った研究テーマは、素粒子の話とどのようにつながっているのでしょうか。
相原 ● ダークエネルギーの研究です。真空の中に何か不思議なエネルギーが満ちていて、宇宙を加速膨張させているというのです。この不思議なエネルギーを量子力学的に理解したいと思っています。ダークエネルギーも真空に原因があるので、きっと素粒子物理で説明できるはずであるという思い込みを持っています。「真空にはきっと何かある」と。ただ、研究の方法としては、ダークエネルギーに関しては宇宙を相手にしているので、その性質を理解しようと思うとまずは天文的アプローチが必要になります。例えば、ダークエネルギーの密度が時間とともに変わっているかどうかに興味があります。ただ、非常に希薄なので、普通の地上の実験ではわかりませんから、宇宙を実験室として使わざるを得ないんです。そこで望遠鏡が必要になってきます。1個1個の星を見るのではなく、真空を見なければいけません。非常にたくさんの銀河の空間分布や形を宇宙の年齢の関数として見ることで宇宙の真空の構造がどうなっているかという情報を得ることができます。
横山 ● すばる望遠鏡の広視野という特徴、そういう望遠鏡を持っているという日本の強みが生かされているんでしょうか。
相原 ● そうです。この研究を進めるには、たくさんの銀河を観測して、統計的相関を測る必要があります。そういうことができる望遠鏡は限られています。一度にたくさんの銀河を撮影するためには大きなデジカメが必要になりますが、大きくなれば重くなるわけです。そういう装置を焦点のところに搭載できる望遠鏡は、8m級ではすばる望遠鏡しかありません。
横山 ● 素粒子の分野の人が天文学の装置を使うことに特に抵抗のようなものはないんでしょうか。
相原 ● ないですね。大きなカメラを使うと非常に膨大なデータが出てきます。天文学ではそういった膨大なデータが扱われることはあまりなかったんですが、素粒子実験では膨大なデータを扱うのが当たり前なんです。そういう点でも入りやすいんですね。
浅井 ● 「大きいことはよいことだ」的なところが素粒子実験にはありますから。
相原 ● 大ざっぱなことが好きで、詳細に入ると弱いというのはあります。でも、大ざっぱで見つかるものが大きな発見につながることが多いんですね。
すばる望遠鏡 ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ ハワイ島、マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡(左)と、望遠鏡の主焦点に取り付けられたハイパーシュプリームカム(右)。ハイパーシュプリームカムは、非常に広視野での観測ができる、9億ピクセルの巨大なデジタルカメラである。
素粒子物理を発展させる原動力
横山 ● 専門外の方からみると、LHCをつくるのに15年もかけるというのは信じられない世界だと思います。
浅井 ● 宇宙の成り立ちをきちんと解明しようというのは、古代ギリシアの頃からつながる人間の関心事なんですね。
相原 ● 関心がなければ、やらないですよね。
浅井 ● 私が非常に大事だと思うのは、宇宙がどのようにしてできて、なぜ今のような形になっているかということです。その疑問が人を動かすのだと思います。標準理論の完成のためだけだったら、15年もかけて実験はしないと思うんです。
相原 ● 1つは基本的なもの、物事の元になっているもの、宇宙の元になっているものというものに、人間は魅かれるのではないでしょうか。それは学者だけではなく、専門家でない人もひきつける。「宇宙はどのようにできたのか」は誰にとっても知りたいことではないでしょうか。そこに自分の研究によって迫ることができるというのは、魅力だと思いますし、素粒子物理が日本で急速に発展した理由もそこにあるのではないでしょうか。物理の中でも特に基礎的なテーマですから、研究したい人がたくさんいるのです。
浅井 ● 私は昼間は大学の用事が多くて、夜中に研究をすることが多いんですが、夜中に実験や解析をしていて、何か見つけたり考えついたりします。「これを知っているのは世界で自分だけだな」と思うとその時の高揚感といったら、もう言いようがありませんね。たいがい、その発見はハズレなんですが……。
相原 ● 理論を進めるには、強く思い込まないと進まないところがあります。超対称性理論の研究もその例です。
浅井 ● そういう思い込みを自然科学にするのが実験なんです。
相原 ● 理論の研究者は、自分が正しいかどうかということを気にしながら進めているわけではないと思います。
横山 ● 美しいかどうかですか。
相原 ● 自分なりの哲学があるのでしょうね。とはいっても、多くの人に訴えるものがあるから残るのでしょう。実験は、理論に引かれながらやっていくわけですが、そうでないものが見つかるかもしれない。たとえばニュートリノ研究では、予想外の発見がたくさんありました。
技術革新でさらなる解明を目指す
横山 ● 理論であれ実験であれ、非常に基本的なことを突き詰めていく背景には技術がありそうですね。
相原 ● 物理の最先端はそういうものでしょう。物性物理研究でも、技術力なしに成果はあげられない時代になっていますよね。一番よい技術を持った人がいろいろなことをやれる可能性があって、発見の可能性もある。物理の場合は、その点は共通していると思います。
浅井 ● 新しいデバイスで新しい方法を使えば、必ず新しい発見があります。たとえば天文学でいえば、新しい波長で見れば必ず新しい発見ができますよね。素粒子の分野でも、新しい波長や新しい技術を使うことで、感度が1桁上がれば世界はがらっと変わります。ですから、より高い感度で、誰も見たことのない波長で見たい。今まで実現しえなかった新しい強度とか。その意味でフロンティアですよね。それが新しい発見につながってくるわけで、その根幹をなしているのが技術だと思いますし、そういう技術に対する興味がありますね。
横山 ● 今後の素粒子物理学も技術の進歩とともに発展していくことになるのでしょうか。
相原 ● 現在の技術ではすぐに限界が来ますので、技術革新がない限りは進みません。逆に技術革新がある限りは、どこまでも発展すると思います。
浅井 ● 今の加速器の技術では限界がありますね。
相原 ● 皆がいろいろな試みをしているわけですが、技術革新はあり続けるだろうと思っています。そこは私は楽観的ですね。
浅井 ● そのためには、やはりそういうことに対する知的好奇心がないといけない。人間が知的好奇心を持ち続ける限りは、あると思っています。「好奇心」を失ってしまうと進歩も発展もなくなるでしょう。
相原 ● 実験というのはそういうものですよね。そこでどれだけいろいろなアイディアを出し続けられるかですよね。
横山 ● 今からこの分野に入ろうと考える若い人たちにとっては、技術革新に伴ってこの分野はまだ進めるのだということですね。
相原 ● より一層のチャレンジがあるということですね。
浅井 ● 1つの発見があると、10個の新しい謎ができます。だから決して、標準理論ができたから素粒子の研究は終わりとか、そういうものではないのです。ヒッグス粒子が見つかったということは、実は新しい何かがあるということなんです。今まではパーティクル(粒子)を扱っていましたが、真空や時空を入れたグローバルな総合科学になっていくのだろうと考えています。
横山 ● 加速器の進歩は大型化だけでなく、関連した技術を革新していくという方向もあるんですね。
浅井 ● あると思います。
相原 ● それにはいろいろなアイデアがあるんですが、そういうアイデアが実際の実験に使えるようになるところまでにどのくらいの時間がかかるかはわかりません。でもそういう研究にも力を入れています。技術革新がないと次のステップに行けないということは、皆わかっていますから。
横山 ● 今後も素粒子物理学の進歩は続いていきそうですね。今日はありがとうございました。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―