2015/03/10

武田洋幸教授 比較腫瘍学常陸宮賞ご受賞に寄せて

武田 洋幸 教授

武田洋幸教授

生物科学専攻の武田洋幸教授が第18回比較腫瘍学常陸宮賞を受賞されました。比較腫瘍学常陸宮賞は、比較腫瘍学ならびにこれに関連する分野で優れた業績を挙げた研究者に贈られる賞です。

武田教授は、小型魚類を用いて脊椎動物の器官形成原理にかかわる重要な発見を次々と世界に先駆けて発表されました。なかでも脊椎動物の発生過程の重要なイベントである体節形成の研究は独創的です。武田博士はゼブラフィシュを用いて、体節形成にかかわる数千から数万個の細胞集団(分節時計)が「結合振動体」であることを突き止め、この細胞集団が同調的に活動し、しかも細胞間の同調の「ぶれ」を効率よく吸収して長い時間正確に時を刻む機序を解明しました。これは多細胞から構成される組織が統一体として機能する現象の根幹に触れる重要な発見であり、将来がん生物学にもかかわってくると期待されます。博士はまた、発がん物質ENUで誘導した内蔵逆位を示す変異メダカを解析し、正常な体軸形成に必要な遺伝子Kintoun(ktu)を単離しました。そしてktuは繊毛運動に必要な遺伝子であり、その欠損は、内蔵逆位に止まらず、気管支拡張症や多発性嚢胞腎など多数のヒト繊毛病の原因遺伝子の一つであることを明らかにしました。

武田教授は、発生学における未開拓な根本問題に対して常に正面から取り組んでこられました。その勇気ある研究姿勢に驚かされます。また、武田教授の成果はサイエンスとして極めて普遍性の高いものであり、このような研究こそが今後、がん生物学の新たな進歩に繋がるものと信じます。ご受賞を心よりお祝い申し上げます。

第18回比較腫瘍学常陸宮賞
http://www.jfcr.or.jp/princehitachiprize/index.html


(文責:生物科学専攻 島田敦子)

 

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

  • このエントリーをはてなブックマークに追加