2013/12/25

井出哲氏の日本学術振興会賞受賞によせて

井出哲(いで さとし)氏が取り組んでいる地震の震源の研究は、地震発生過程を理解するために最も基礎的かつ重要な課題に関するものです。 大学院生時代には、地震波の分析から、地震断層における摩擦法則が推定できることを示しました。現時点では当然と思われるかもしれないが、当時は誰も気付かなかったことで、コロンブスの卵のようなものです。異なる現象を俯瞰的にみる能力にもたけています。鉱山の山はねから巨大地震まで、サイズの異なる現象を一括して比較し、地震波エネルギーに関するスケール法則を導いたり、ゆっくり地震のスケール法則が普通の地震と異なることを指摘したなどの実績もあります。 上述した一連の研究は、国内海外共にこの分野の研究者に大きなインパクトを与えており、それぞれが異なる分野で新しい展開を生み出してきました。

2011年東北沖巨大地震は地震学の「常識」の多くを打ち破りました。地震という現象は既成概念を廃して再検討されなければならない状況に置かれています。50年前(特に日本では)地震の震源についての研究と地震予知の研究はほぼ同等なものとみなされましたが、現時点では地震の予知への単純な道は存在しないというのがこの分野の共通認識となりました。一般的 に正確な予知・予測の困難さの原因は、地震発生の複雑さにあると理解されています。厳密な意味での地震発生を説明する新パラダイムが必要であるが、その目標への道を開拓することは、この分野の全世界の研究者が挑まなければならない課題です。 これまでの業績を考えますと、その壁を突破する可能性が最も高い人物は井出氏だと考えられます。

(文責:地球惑星科学専攻 教授 ロバート・ゲラー)



日本学術振興会賞
http://www.jsps.go.jp/jsps-prize/ichiran_10th/10_ide.html

 


―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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