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8/10 生物科学専攻田嶋文生教授が日本進化学会賞と木村資生記念学術賞を受賞
生物科学専攻の田嶋文生教授は、「遺伝的変異の遺伝子系図学的解析理論」が評価され、7月30日に「日本進化学会賞」と「木村資生記念学術賞」を受賞しました。
「日本進化学会賞」は、進化学会の会員であるか否かを問わず、進化学や関連する分野において学術上非常に重要な貢献をした者に与えられる賞で、田嶋教授は非会員として初めて受賞しました。同時に、公益信託進化学振興木村資生基金より「木村資生記念学術賞」も受賞しました。
集団内変異と進化の機構を分子のレベルで明らかにすることは、集団遺伝学のもっとも重要な課題です。田嶋教授は、集団内と集団間の遺伝的変異を統計的に解析する分野の第一人者として、その名が世界中に知られています。中でも、集団内DNA 多型に関し、遺伝子系図学の理論からDNA 配列の進化的関係を明らかにした研究は、田嶋教授の最も優れた業績のひとつで、その発表論文(Genetics 105:437-60, 1983)は被引用件数が1,000 を優に超えています。この論文は2009 年12 月、論文を発表した米国Genetics 誌によって、過去93年間で飛躍的進歩をもたらした精選論文25 編のひとつに選出されました。田嶋教授は、この理論に基づきDNA 変異の中立性を検定する統計的方法を考案し、1989 年に Genetics 誌に発表しました。この方法は Tajima’s Test (あるいはTajima’s D)として広く用いられ、発表論文の被引用件数は3,000を優に超えています。その後、自然選択が働く場合、集団の大きさが変化した場合、集団構造がある場合あるいは突然変異率が座位ごとに異なる場合などについて、DNA変異のパターンの研究を発展させました。その他にも、田嶋教授は、集団間の塩基置換数(遺伝的距離)の推定法、系統間での進化速度の違いを検定する方法、集団の有効な大きさの推定法などを開発し、実験集団遺伝学と深く関わった理論の進展に貢献してきました。これらの研究は、理論・実験両面の集団・進化遺伝学者はもとより、DNA 変異を解析するあらゆる分野の研究者に多大な影響を及ぼしています。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―