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10/26 生物科学専攻の大森良弘特任研究員の論文がGGS prize 2010を受賞
本研究科生物科学専攻の大森良弘特任研究員を筆頭著者とする下記論文が、GGS prize 2010 を受賞しました。本賞は、日本遺伝学会が発行しているGenes and Genetic Systems 誌において、年間で最も優れた論文に授与される賞です。この論文は、2009年に発行された論文の中から選出されました。
The spatial expression patterns of DROOPING LEAF orthologs suggest a conserved function in grasses. Genes Genet. Syst. 84, 137-146, 2009.
大森博士は、大学院博士課程在籍中より、植物のDROOPING LEAF(DL) 遺伝子の発現と機能に関する研究を続けています。DL遺伝子は、イネの葉と花の発生に重要な機能を担っている遺伝子で、この遺伝子が機能を失うと、葉の中肋(注)という構造が欠失して葉がしな垂れるようになり、花では雌しべが雄しべへとホメオティックに転換します。葉と花という全く異なる器官で発生の鍵となる2つの機能を一つの遺伝子が担っているのは、非常に珍しく、イネにおける発見以来、DL 遺伝子は植物発生学の分野で注目されています。しかし、 DL のオーソログ(進化的に同じ起源をもつ遺伝子)に相当するシロイヌナズナのCRC 遺伝子には、このような機能はなく、DL の機能は進化学的にも興味が持たれています。大森氏は、大学院時代に、コムギやソルガム、トウモロコシなどのDL 遺伝子を単離し、時間的・空間的発現パターンを解析することにより、イネ科植物のDL 遺伝子はイネと同様の機能をもっていること(機能が保存されていること)を明らかにしました。また、DL/CRC遺伝子が被子植物の進化において、どのように機能分化してきたのかを、深く考察しました。これらの業績が認められ、GGSの論文賞に選出されたのだと思います。この研究は、大森博士の博士論文の一部を構成しており、他の章を構成するDL遺伝子の詳細な機能解析に関しては、近々、植物科学のトップジャーナルの1つPlant Journal 誌にその論文が掲載されることになっています。今後も、大森博士の植物科学分野における活躍が期待されます。
(注)中肋とは、葉の主脈に相当する強い構造体で、イネ科のよう薄くて長い葉は、この構造体があることにより、真っ直ぐ葉をのばすことができます。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―