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2009/06/26
日本動物学会平成21年度Zoological Science Award受賞 臨海実験所 柴田朋子 特任研究員
今回Zoological Science Awardに輝いた論文は,棘皮動物や新口動物の ボディープランの進化を理解する上で重要な位置を占める,ウミシダ類の 発生と飼育を安定して行えるシステムの構築の成功を扱ったものである. 柴田さんは1年に1度しか産卵しないニッポンウミシダの生殖・成長を年に 渡って観察し,試行錯誤を経て卵から性成熟に至るまでの完全飼育に世界で 初めて成功した.また,ニッポンウミシダの産卵期が半世紀前と比べて2週間 遅くなったことを明らかにし,海水温上昇との関連を示唆した. 柴田さんは理学部地学科で古生物学の研究を始め,卒業研究として「生きている化石」として有名な ウミユリ類,ウミシダ類の研究を開始し,地球惑星科学専攻修士課程修了後, 生物科学専攻博士課程へと所属を移しながらもウミシダの研究を継続した. 特に日本の地の利を生かし,三崎臨海実験所(油壺)近傍に多く生息する ニッポンウミシダを用い,その発生と形態形成,再生に関する研究を行った. 古生物学から出発し,化石種から現生種まで統一的にとらえ,地質学的スケールで 生物進化を考えるマクロな視点を身につけた後に生物学へとフィールドを移したことが, 彼女の研究者としての独自性に大きな影響を与えていると考える. 受賞論文は,これまで飼育が困難なために扱いづらかったウミシダを, 新たな実験動物として用いる可能性を開いた先駆的研究である.すでにこの飼育系を 利用した他の研究者による研究も進行中であり,今後のウミシダ研究の発展が期待される.
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―