第29回東京大学理学部公開講演会 「分子から生命へ 理学がたどる」
「分子から生命へ 理学がたどる」
生物は分子でできている、そう私たちでさえも。
どのようにして分子が生命としての機能を持つのだろうか。
今回は、三人の科学者が生命を分子レベルから掘り下げ、そして
未来にどうつなげていくかを紹介します。
講演者・講演内容
立体構造に基づくCRISPRゲノム編集ツールの開発
濡木 理(生物科学専攻 教授)

バクテリアの獲得免疫機構に働くII型CRISPR-Cas9は、ガイド鎖RNAと協働し標的二本鎖DNAを切断することから、真核生物を含めたあらゆる生物のゲノム編集に用いられています。我々は、3生物種のCas9について、ガイドRNA、標的DNAの4者複合体の結晶構造を1.7-2.5 Åの高分解能で解明し、ガイドRNA依存的なDNA切断機構やPAM配列の認識機構を明らかにしました。さらに立体構造に基づいて、自己と非自己を識別するのに用いられるPAM配列の認識特異性を変えることに成功し、ゲノム編集ツールとしての適用範囲を拡張することに成功しました。最近、V型CRISPR-Cas系に関わるRNA依存性DNAエンドヌクレアーゼCpf1が発見され、新たなゲノム編集ツールとして注目されています。我々は、Cpf1-ガイドRNA-標的DNA複合体の結晶構造を決定し、その作動機構を解明することに成功しました。我々は、これらCRISPR複合体の立体構造に基づき、革新的なゲノム編集ツールセットを構築し、様々な遺伝疾患の遺伝子治療を近々の目標としています。
流れの中でのものづくり
小林 修(化学専攻 教授)

私たちの身の回りにあるクスリ、香料、液晶、半導体用ケミカルなどは高付加価値の化成品で、「ファインケミカルズ」と呼ばれています。ファインケミカルズの多くは、有機合成化学によって石油などから得られる安価で簡単な構造の原料から製造されます。ここでは、反応釜やタンクを用いる「バッチ法」が用いられています。これに対して私たちは、反応釜やタンクの代わりに菅やループを用いてそこに触媒を充填し、原料を流すだけでファインケミカルズを製造する「フロー法」を開発しました。「フロー法」は「バッチ法」に比べて製造に伴う廃棄物の量が圧倒的に少なく、省エネルギー、省スペースで、欲しい時に欲しい量だけ安全に製造できるため、来るべき持続可能な社会におけるものづくりの切り札として期待されています。
特殊ペプチド創薬イノベーション:創薬のゲームチェンジ
菅 裕明(化学専攻 教授)

医薬品開発の主流は長い間有機小分子薬剤であったが、標的タンパク質へ高い特異性をもつ抗体が近年盛んに開発され、上市されています。副作用が少なく薬理効果の高い抗体は、有機小分子薬剤に代わる薬剤として非常に期待が高い反面、標的タンパク質が細胞表面分子や分泌分子に限られ、また免疫毒性や生産コストが高いことも、患者への負担を高めています。そういった中、タンパク製剤に代わる次世代薬剤として、有機小分子薬剤なみの低い分子量をもつ第3の医薬品開発の期待が高まっています。本講演では、その第3の医薬品として注目されている特殊ペプチドについて話します。
開催日
2017年3月28日(火)
時間
14:00~17:00
※開場13:00 ※終了後、講演者との歓談の時間を設けます。
場所
東京大学本郷キャンパス 安田講堂 アクセスマップ
入場
無料(事前申込み不要。どなたでもご参加いただけます。)
※理学部では「バリアフリー支援」を行っております。障害等のため、設備、情報保障等の配慮が必要な場合は、事前に申し出て下さい。
定員
800名(当日先着順)
高校生・大学生もぜひご参加ください。
中継
インターネット中継は終了しました。沢山のご視聴をありがとうございました。
主催
東京大学大学院理学系研究科・理学部
連絡先
東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室
電話 | 03-5841-7585 |
---|---|