第10回理学部公開講演会『時間の科学』

時間の科学

私たちをとりまく自然に目を向けると,さまざまな現象が日常感覚を超えた時間スケールで起こっていることがわかる。多様な時間スケールでとらえた最先端の科学の世界を通して時間の不思議を体験していただきたい。また,第10回記念特別講演として,国立天文台名誉教授 海部宣男氏をゲストに招き,最近ホットな惑星定義の話題を交えながら太陽系の起源と歴史について解説していただく。

日時

2006年12月2日(土) 14:00~16:35(13:30開場)

※講演会終了後,講師との歓談の時間を設けています。

場所

東京大学本郷キャンパス 安田講堂

講演者

地球環境変動と年代測定

横山講師

横山祐典 理学系研究科地球惑星科学専攻 講師

過去のイベントを探るために重要な年代測定。とくに考古学や地球科学の研究でその威力を発揮している放射性炭素年代測定法は,20世紀半ばにアメリカのウィラード・リビー博士により提唱され,その功績により彼はノーベル賞を受賞した。それから半世紀,加速器質量分析の発展により,放射性炭素年代測定は極微量なサンプルでも高精度に測定できるようになり,応用範囲を広げている。しかし,この方法による“年代”は,必ずしも私たちが現在つかっている“カレンダ年代”のスピード(つまり1年=365日)では動いておらず,時計の“スピード”が変化していたことが明らかになってきた。超新星の爆発,気候変動,そして最近では人類の核実験によっても,その“スピード”は変化する。講演では,最近の国際的な研究動向も交えつつ,このトピックスについて分かりやすく紹介する。

講演要旨 » 横山先生への質問と回答

1999年オーストラリア国立大学地球科学研究所博士課程卒,PhD.同大学地球科学部ポストドクター研究員,アメリカ カリフォルニア大学バークレー校宇宙科学研究所研究員,アメリカ エネルギー省ローレンスリバモア国立研究所研究員を経て2002年10月より現職。同位体地球化学的手法を使って,南極氷床やアタカマ砂漠,赤道太平洋までを調査対象域に,近未来の気候変動予測に重要な過去の気候変動の詳細を明らかにしようと研究を行っている。

動物のからだを刻む分節時計

武田教授

武田洋幸 理学系研究科生物科学専攻 教授

60兆個もの細胞が織りなす複雑で機能的な私たちのからだは,一つの受精卵から創り出される。私たちは多くの利点を有する小型魚類を用いて,このかたちづくりの普遍的なメカニズムを探っている。現在特に注目している現象の一つが,背骨に見られるような繰り返し構造の形成過程である。実はこの過程には,正確に時を刻む時計の働きが必要である。この時計は分節時計とよばれており,ある遺伝子の発現のON/OFFを周期的に繰り返す細胞の集合体である。今回は,からだのなかでリズムを創り出す分節時計のメカニズムについて実験例とともに紹介したい。

講演要旨 » 武田先生への質問と回答

1984年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。1985年同大学理学部・助手,1990年理化学研究所・研究員,1993年名古屋大学理学部・助教授,1999年国立遺伝学研究所・教授を経て2001年より現職。専門分野:動物発生学,発生遺伝学。脊椎動物のかたちづくりのメカニズムを小型魚類を用いて研究。

ひろがる太陽系:惑星の新しい定義をめぐって

海部教授

海部宣男 国立天文台 名誉教授

8月の国際天文連合総会で惑星の定義が決定され,冥王星が惑星から外れたということが大々的に報道された。だが,国際天文連合の決定が意味するものは,実は冥王星の運命や惑星の数などを超えて,ずっと大きなものである。近年の望遠鏡や観測技術の進歩によって,冥王星を超えてはるかに遠い天体が続々と発見されているからだ。新天体は観測とともに増え続け,太陽系の起源にも新しい視点が生まれてきた。私たちの太陽系はめざましく拡がり,豊かなものになったのである。私は日本代表としてプラハでの総会に参加したので,その経過も含めながら,科学の進歩が大きく変えようとしている太陽系の最新のイメージと,決定の意義,そしてこの決定が社会や子供たちに何を伝えるのかを,わかりやすく解説したい。

講演要旨 » 海部先生への質問と回答

国立天文台名誉教授,日本学術会議会員。1966年東京大学教養学部基礎科学科卒業,同大学院理学系研究科天文学専門課程を経て1969年東京大学理学部天文学教室助手。1979年東京大学東京天文台助教授。1988年国立天文台教授。1997年国立天文台ハワイ観測所長。2000年から2006年まで国立天文台台長。専門は電波天文学,赤外線天文学。野辺山の45m電波望遠鏡,ハワイのすばる望遠鏡の建設などをリードし,ミリ波天文学,特に星間分子による星間雲・星の形成過程などを研究。一般向けの著書多数。