第9回理学部公開講演会『理学研究のさまざまな面白さ』
理学研究のさまざまな面白さ
理学部ではいろいろな研究が行われている。すべてに共通するのは,自然界の真理を探求するということだが,私たちの日常からかけ離れた世界から,私たちの社会生活と密接につながった問題まで,研究の対象も,手法も,千差万別である。そうしたさまざまな基礎科学研究の最新の話題を,最先端で活躍している研究者が分かりやすく解説する。
日時
2006年4月21日(金) 18:00~20:30(17:00開場)
場所
東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科大講義室
講演者
加速器で解明する素粒子と宇宙の謎

駒宮幸男 教授 理学系研究科物理学専攻
素粒子物理学は今,大きな転換点に立っている。現在の「標準理論」を超えるパラダイムの転換が次世代の最高エネルギーの加速器によって確実にもたらされると期待されている。高エネルギー加速器実験の目的の一つは,高温すなわち高エネルギーのビッグバンにより近づくことであり,宇宙初期において起こっていた素粒子反応を一瞬実験室で再現し,宇宙史を地上での実験で解き明かすことである。2007年にはジュネーブのCERNで陽子陽子衝突の巨大加速器LHCが動きだし,次いで電子・陽電子衝突の国際リニアコライダーを計画している。極微の世界を探求する素粒子物理と壮大な宇宙物理は,もはや一つの大きな学問分野として融合されつつある。
1976年 東京大学理学部物理学科卒業,東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程中退,東京大学理学部助手,西ドイツ・ハイデルベルク大学物理学研究所研究員,米国・スタンフォード大学 SLAC 研究職員,東京大学素粒子物理国際センター助教授,東京大学素粒子物理国際センター教授,東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授,2000年東京大学素粒子物理国際センター長 併任。
巨大天体衝突による環境擾乱と生物絶滅

今からおよそ6500万年前(白亜紀末;K/T境界と呼ばれる)に,地球に巨大な天体が衝突して,恐竜をはじめとする生物の絶滅を引き起こしたとする説がサイエンス誌に発表されてから,既に26年が経つ。この荒唐無稽とも思えた説に刺激されて,天体衝突と生物絶滅に関する議論が80年代から90年代にかけて盛り上がったが,明確な決着を見ぬまま,議論は立ち消えになっている。この仮説は,どこまで正しかったのだろうか? 地球に巨大な天体が衝突した時,それは地球環境にどの様な変動をもたらしたのだろうか? こうした問題に関する最新の知見を,キューバでの9年間に及んだ地質調査の成果や経験談などを織り交ぜつつ,紹介する。
1976年 東京大学理学部地学科卒業,東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士課程修了,東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程博士課程修了,東京大学理学部助手,米国ハーバード大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員),東京大学理学部講師,東京大学理学部助教授,東京大学大学院理学系研究科教授。
- 専門分野
- 古環境学,地球システム変動学
- 研究テーマ
- 地球環境の進化,変動の復元およびそのダイナミックスの研究
世界最高速の計算と通信を目指して

現在私たちのグループで実施している科学技術振興調整費プロジェクトでは,スーパーコンピュータの計算速度で世界一高速を実現し,同時に世界最高速度での長距離ネットワーク実用化を目指している。これらの新技術を用いることにより,新しい科学の真理を発見することが大局的な目的である。本講演では,世界最高速を実現するための目標,方法,技術とともに,最高速を目指す過程から生まれてくる新しい情報処理技術を示す。
1982年 東京大学理学系大学院物理学専門課程修了,理学博士,工業技術院電子技術総合研究所研究員,米国 IBM T.J.Watson 研究センター客員研究員をへて,東京大学理学系研究科助教授,東京大学理学系研究科教授,東京大学情報理工学系研究科教授。超並列計算システム,超高速計算機アーキテクチャと,高速ネットワーク通信を中心に研究活動を行っている。現在,インターネット速度記録(Internet2 Land Speed Record)を全種目保持している。