第8回理学部公開講演会『意外と身近な理学研究』

意外と身近な理学研究

理学部での研究というとみなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?難しい? 堅苦しい? 分かりにくい?いえいえ、そんなことはありません。第8回公開講演会では理学部で行われている最新の研究の中から、身近だけれども案外知られていないテーマを選んでわかりやすくお話しします。

  • 私たちの地球環境は一体どうなっていくの?
  • 私たち人類や文明は一体どのように地球上に広がっていったの?
  • 私たちの命を支えている化学反応はどのように進むの?

知っているつもりでも実は知らないこんな三つの不思議を、ちょっと一緒にのぞいてみませんか?

日時

2005年11月11日(金) 18:00~20:30(17:00開場)

場所

東京大学本郷キャンパス 安田講堂

講演者

分子と生命をつなぐ分光学

濵口宏夫教授 理学系研究科化学専攻

1975年、東京大学大学院化学専門課程修了。同年より東京大学助手、講師、助教授、教授(教養学部)を経て、1997年より東京大学大学院理学系研究科化学専攻教授。理学博士。

物質に光をあてて得られる分子スペクトルは、「分子からの手紙」と呼ばれます。スペクトルが分子の構造や動き、また分子の回りの環境などを鋭敏に反映するからです。スペクトルを解読することによってこのような分子情報を得る学問、分光学は、基礎理学から応用工学、医学に至る広い領域において、極めて重要な役割を果たしています。最近の技術革新により、分光学はフェムト秒(10-15 s)、ナノメートル(10-9 m)で時間と空間を分解して物質を調べる能力を獲得しました。その結果、我々は、溶液中の超高速化学反応から、生細胞の細胞分裂、人体組織の病変まで、様々な分子現象を物理化学の視点から解明することができるようになりました。本講演では、いくつかの例をあげて、時間と空間を分解した分光学が、物理、化学、生物の壁を超えて新しい理学を創成して行く道筋を示したいと思います。

講演要旨

人類進化の舞台としての西アジア(レバント)

近藤修助教授 理学系研究科生物科学専攻

1965年 名古屋生まれ。1990年東京大学卒、1992年東京大学修士課程(人類学)修了後、札幌医科大学、東北大学医学部をへて、現在、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻助教授。

西アジア(レバント地方)は2つの点から人類史上興味深いフィールドである。1つは人類進化の交差点として、もう1つは文明(農耕革命)発祥の地としてである。ヒトはおよそ700万年前アフリカで誕生し、ホモ属の段階以降ユーラシア大陸への拡散を繰り返してきた。この拡散経路の中心にあたるのがレバントである。我々日本調査隊はここ10数年シリアのデデリエ洞窟を発掘し、レバントの人類史のいくつかのページの記載に貢献しつつある。本講演ではフィールドワークにかかわる複数分野での成果をわかりやすく紹介する。

講演要旨

地球シミュレータによる地球温暖化の予測

木本昌秀教授 気候システム研究センター

東京大学気候システム研究センター・教授。Ph.D.(UCLA、大気科学)。気象庁、気象研究所などを経て、1994年より気候システム研究センター勤務。気候の数値モデルを用いた異常気象や地球温暖化の研究をしている。

近年真夏日や熱帯夜の日数の増加や大雨、台風被害の話題が多く、人間活動による地球温暖化の影響が懸念されている。人間が排出し続ける二酸化炭素やエアロゾル(大気中の塵(ちり))によって気候はどのように変わるのか?われわれは、物理法則にのっとって、地球上の大気や海洋、雲、海氷などの動きや変化を数値的に解く、「気候モデル」を開発して、地球の将来予測を行っている。このような予測研究は、社会の適切な対応を可能にするだけでなく、複雑に決まる気候の謎に挑む科学的な挑戦でもある。日本の誇る世界最高速コンピュータ「地球シミュレータ」による地球温暖化計算を中心に、気候モデルとはどのようなものか、われわれの挑む謎とはどういうものかを紹介する。

講演要旨