第7回理学部公開講演会『理学研究が探る宇宙・地球・生命』

理学研究が探る宇宙・地球・生命

人類の知的探求は,自然界のあらゆる領域に向けられている。なかでも,宇宙,地球,生命に対する理解の深化は,我々の自然観や世界観の形成にも大きな影響を与えてきた。そうした基礎科学研究の最新の成果を,各分野の最先端で活躍している研究者が解説する。

日時

2005年4月28日(木) 18:00~20:30(17:00開場)

場所

東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科 大講義室

講演者

ゲノムから探る味と匂いを感じるしくみ

榎森康文助教授 理学系研究科生物化学専攻

ゲノムプロジェクトの進行によって遺伝子に関する基礎データが豊富になってきています。社会では,こうした研究の成果を医薬などの応用分野に適用する動きが盛んです。しかし,遺伝子の研究は,「生命をより知りたい」と云う‘好奇心’に基づいて始まりました。生命を知りたいという「知の科学」をめざす基礎研究の世界においても,遺伝子研究の成果は,生化学・生理学など,他の生命科学の研究基盤と組み合わされ,新たな発見を次々にもたらしています。その例として,私たちが化学物質を感じる仕組み,つまり,味を感じる味覚と匂いを感じる嗅覚の仕組みを取り上げ,近年わかってきたこと,依然としてわからないことなどをお話したいと思います。

講演の概要

  • 1978年東京大学理学部生物化学科卒業。
  • 1983年東京大学大学院理学系研究科修了(生物化学専攻)。
  • 1983年三菱化成(現,三菱化学)生命科学研究所を経て,同年より(財)東京都臨床医学総合研究所。
  • 1990年より現職。

大地震の揺れに地球シミュレータで挑む

古村孝志助教授 地震研究所/(兼)理学系研究科地球惑星科学専攻

昨年の新潟県中越地震やスマトラ島沖地震がまだ記憶に新しいように,最近日本の周辺では大地震の強い揺れと津波による甚大な被害が繰り返し起きている。地震の揺れの伝わりかたは運動方程式の数値計算により評価される。超並列スーパーコンピュータ(地球シミュレータ)の登場により,複雑な日本列島の地下構造を細かくモデル化し,高精度に計算を進めることが可能になった。計算結果をビジュアルに表現することにより,震源から地震波が放射され,そして私たちの住む平野に強い揺れが生成されるまでの一連の物理プロセスをよく理解することができる。コンピュータシミュレーションは,過去の被害地震の再現だけでなく,将来起きる大地震の揺れの正確な予測と被害軽減に利用される。

講演の概要

  • 1992年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。北海道教育大学助手・講師・助教授を経て、2000年より東京大学地震研究所地震火山災害部門助教授。
  • 専門は地震波動論とコンピュータシミュレーション。

宇宙の新たな謎~ダークマターとダークエネルギー~

岡村定矩教授 理学系研究科天文学専攻, 前理学系研究科長

電磁波による観測によってその存在を確認できる物質は,宇宙の全エネルギー密度の僅か5%でしかない。残りの25%はこれまでの天文観測で直接には検出できていないダークマター(暗黒物質),70%は正体不明のダークエネルギー(暗黒エネルギー)である。天文観測は近年の技術発展とともに急速に進歩しているが,われわれは自らの住む宇宙のことをたった5%しか知らないのである。こんな驚くべき宇宙の姿がごく最近明らかになった。この講演では,天文学者がなぜそのような結論に至ったのか,すなわちダークマターとダークエネルギーが存在しなければ説明できない観測的現象をわかりやすく解説する。

講演の概要

  • 1948年山口県生まれ。
  • 1970年東京大学理学部天文学科卒業。
  • 1977年東京大学理学博士。
  • 1978年東京大学助手(東京天文台木曽観測所)。
  • 1986年東京大学助教授(東京天文台木曽観測所)。
  • 1991年東京大学教授(理学部天文学科)。
  • 2003-2005年東京大学大学院理学系研究科長・理学部長。