小柴名誉教授ノーベル賞受賞記念事業

第1回 理学-先端産業懇談会「先端的計測で拓く基礎科学の未来」

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます

昨年秋に本研究科名誉教授の小柴昌俊博士がノーベル物理学賞の栄誉に輝きましたことは、田中耕一氏のノーベル化学賞の受賞とも相まって、科学・技術に携わる日本人一同にとって大きな喜びとなりました。この偉業を記念し、もって日本の基礎科学(理学)研究と先端産業の双方が、多様な連携を通じて一層の発展を遂げる一助とすべく、私たちはこのたび別紙発起人各位のご賛同を頂き、「理学-先端産業懇談会」を立ち上げることといたしました。

私たち理学者は、誰も見たことのない現象を捉え、極限の精度で計測を行い、誰も解けなかった謎を解こうとする情熱に動かされて研究を続けています。こうした基礎研究は、じつは最先端の産業技術と深い繋がりをもつ場合が少なくありません。陽子崩壊やニュートリノなど、「見えないもの」を見たいという小柴名誉教授の情熱が、先端企業の全面的なご協力の下、カミオカンデを産み、ノーベル賞として結実したことは、その端的な例と言えましょう。大学と企業が連携し、それぞれ得意な部分を分担することで、研究開発の視野が大きく広がり、それぞれの国際競争力を飛躍的に高めることができます。先端的な産業の技術が、理学の新しい分野に飛躍的な進展をもたらしてくれる一方で、理学者が心血注いで手作りした極限の技術から、民生用の新しい市場が開拓できる場合も稀ではないでしょう。学生を含めた人材の交流、共同での特許申請、企業と大学が共同しての資金導入や社会的な意見発信など、多くの可能性が広がります。また今日のすべての情報産業が量子力学に基づくように、基礎科学の発展が長期的に見た産業の礎となることは、申すまでもありません。

このたび別紙にて御案内の通り、来る七月二十五日に、東京大学本郷キャンパスにて一回目の催し「先端的計測で拓く基礎科学の未来」を開催する運びとなりました。午前中には発起人各位からのご講演をいただき、また午後には理学系研究科で進行中のテーマ十件ほどの展示を行い、その場でさまざまなご討論をいただけるよう準備いたします。参加はご自由(無料)で、前もってのご連絡や登録は不要です。何卒、多くの方々にご周知いただき、皆様お誘い合せておいで下さいますよう、ご案内申し上げます。皆様のご協力により、この「懇談会」が今後、大学の基礎研究と企業の先端技術の間の「出合いの場」として発展することを期待しております。

敬具

2003年7月1日
東京大学 大学院理学系研究科
研究科長 岡村定矩

主催
東京大学理学系研究科
日時
7月25日(金) 10:00~16:00
場所
東京大学本郷キャンパス 理学部化学本館5階 化学講堂
参加料
無料
  • 誰も解けない謎を解こうとする理学研究者の情熱は、最先端の産業技術と、すぐれたマッチングをもっています。
  • 今日の基礎科学は、数十年先に、産業技術のベースとして貴重な礎を提供するでしょう。
  • 未来に向け、大学と企業の間に「出合いの場」を設けます。

プログラム

【午前の部】発起人からのメッセージ

10:00 佐藤勝彦 (東京大学理学系)
「ご挨拶」
10:20 東倉洋一(NTT先端技術総合研究所)
「企業における基礎・先端R&Dの意義」
10:50 長我部信行(日立製作所 基礎研究所)
「先端計測と科学、産業」
11:20 晝馬輝夫(浜松ホトニクス)
「誰も解けない謎と誰もできないこと」
11:50~12:10 質疑応答

【午後の部】理学系研究科の先端的研究 (展示・演示)

  • 超短光パルスと位相変調器を用いた超高速現象測定(物理学専攻)
  • 極限環境下の物質表面をナノメートルスケールで探る(物理学専攻)
  • 多波長撮像で金星大気の謎を解く(地球惑星科学専攻)
  • 高速のエキゾチック原子核からのガンマ線を高分解能で測る (原子核セ)
  • 原子核の極限状態を調べる(原子核セ)
  • 橙色光による陽子スピン偏極生成とその制御(物理学専攻/原子核セ)
  • 海洋のCO2を測る(地球惑星専攻)
  • 近赤外ラマン分光計測による人体組織の in vivo 分子レベル解析:
    癌の臨床診断に向けて(化学専攻)

ほか