理学部と物理学科と私

物理学科4年 高橋 学

1. 理学と工学の違い

理学部を選ぶかどうか、ということを考える際にまずは「理学とは何か?」という点について確認しておく必要があるでしょう。駒場のみなさんもよくお世話になっているであろうWikipedia先生には、

理学(りがく)とは自然科学の基礎研究を行う諸分野の総称。通常は数学、物理学、化学、生物学、地学、天文学などが含まれる。応用科学である工学、農学、医学に対する「基礎科学」の立場にある学問分野。実用への応用・適用を目的とする広義の「工学」に対し,自然現象の原理を発見・解明することを主目的とする。理学のうち,理論的にもっとも純粋的な領域である数学を除き,自然の振る舞いを扱う分野を特に自然科学と呼ぶことが多い。
とあります。

図1

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図1: 液晶のシュリーレン模様

また、物理学科の上田先生は

工学は人間との対話であるのに対し、理学は自然との対話である。
とおっしゃっています。理学とは自然現象の原理・法則の解明を目的としており、工学とは違って、とりあえずは応用のことはあまり考えません。だから「役に立たないのではないか?」と言われて研究費用が事業仕分けなどの対象になってしまったりしています。

結論から言ってしまえば、理学が役に立たないということはありません。役に立ちます。ただし、応用に至るまでの道のりが長いので、役に立つまでに時間がかかってしまうので、一見すると「役に立たない」と思われてしまうのです。時間がかかってしまうという例として、PCのディスプレイや携帯の画面に応用されている液晶という物質おきましょう。これは発見されたのが今から123年前の1889年であり、初めは『液体のような流動性を持ちつつ、結晶のような複屈折性を持つ新物質』として認識され、「なにか面白そうな物質が見つかりましたね」、「なぜこのような性質を持つのか調べてみましょうか」という理学的な好奇心から研究が進められ、ディスプレイへの実用化が始まったのは発見から81年後の1970年のことでした(初めは電卓や腕時計の文字盤に使われました)。このように基礎科学である理学が発見したことを、応用科学である工学が応用していくのであり、結果的には役にも立っているのです。

2. なぜ理学部を選んだか?

理学と工学の違いについて触れさせていただきましたが、理学部と工学部、もしくは理学部と農学部、のように基礎科学をやるか応用科学をやるかで悩んでいる人も多いと思います。どちらの学部も同じ学問分野に触れるけれども、どちらに進むべきかと。僕の場合も初めから「物理をやりたい」とは決めていたのですが、『理学部物理学科』と『工学部物理工学科』という2つの選択肢があり、悩んでいたのです。物理学にはいくつかの分野があり、その中の大きな一つの柱に素粒子物理学というものがあるのですが、理学部に行かないとその素粒子物理が勉強できないということで、物理学の基礎をちゃんと勉強したいと考えていた僕は理学部を選びました。

基礎科学をしっかりと勉強したいと考えている人に理学部がオススメです。「自然科学を勉強していて楽しいよ!」、「自然現象を観てると楽しいよ!」と思っていて、それらを根本からしっかりと理解したい人は是非理学部に来てください。理学部は(とりあえず応用をあまり気にしないということも相まって)自分が面白いと思ったことを好きなだけ研究できるところです。

これは当日の講演では時間の都合上割愛したのですが、なぜ物理を選んだのかという話はしませんでした。幼いころから…という一途な理由があるわけではないので恐縮ですが、自然現象に最もダイレクトにアプローチしていて、一番面白そうだと思ったからというのが理由です。物理をやろうと決めたのも大学に入ってからのことですし、その前は情報工学を、さらにその前は司法を、その前はよく知りもせずに経済学をやろうなどと考えていました。学科の友人でも物理と化学、物理と数学、物理と脳科学、物理と経済学、さらには物理と哲学のどちらかで悩んで、結局物理を選んだという人がいます。どの学問を選びとるか、というのは自分にとって一番面白い学問は何かだと言ってもいい気がします。何を面白いと思うかは人それぞれです。学部ではなく、学問で悩んでいる人は一番面白いと思えるものは何か、ということを考えてみてください。

3. 物理学科のご案内

図2

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図2: 3年冬学期の時間割

最後に「なぜ理学を選んだのか?」という主旨から若干反れるかもしれませんが、物理学科のごあんないをさせていただきたいと思います。

まず、物理学科のよいところとよくないところを挙げていきましょう。

物理学科のよいところは、5つ。1つ目は、前述の通り、物理を一通り勉強できるという点です。他の学科では勉強しない分野もあります。余すところなく物理を楽しみたいのであれば物理学科が最適です。2つ目は学生の勉強意欲がみんなすごいという点です。理学部の他の学科もそうだとは思いますが、基礎科学をしっかりと勉強したい人が集まるような場所なので、みんな勉強意欲は旺盛です。夜遅くまで大学に残って勉強していたります。3つ目はクラスメートから(良い意味で)影響を受ける、ということです。勉強意欲がすごいということからきていると思いますが、講義や実験のレポートにすごくこだわっている友人がいて、その友人とレポートについて議論して知識を得たり、物理とはあまり関係ないことを勉強している友人がいて、様々なことを知ることができたり、何人かの友人と共通の事柄を勉強するために授業とは別に自主ゼミを行ったりすることができ、勉強の面では非常に充実した生活を送ることができます。いろんなことを知ることができて楽しいです。4つ目は環境がとてもよいということです。上述のような意欲の高さをアシストするかのように勉強の環境が整っています。教室はキレイですし、内部生は図書室を22:30まで利用することができるのでしっかりと勉強時間をとることができます。5つ目は授業が基本的に2限から始まるということです。選択の授業を履修しなければならないのでたまには1限をとらなければなりませんが、必修の授業はみな2限以降なので、夜遅くまで勉強していて朝に弱いという人でも安心のカリキュラムです。すばらしいですね。

これに対して、物理学科のよくないところを挙げようとすると、思い当たりません。つまり、ありません。と言ってしまうと、本当だろうか、と思う人もいるでしょう。強いて言うなら、前述のよいところが人によってはよくないところになってしまうかもしれません。周囲の勉強意欲が高いと、自分もしっかり勉強しなければならないという気になるので、勉強時間をしっかりとらないといけなくなります。忙しい人にはこれは大変かもしれませんね。

よくないところはない、と言ってしまいましたが、物理学科に入る際の注意点のようなものはあります。挙げておきましょう。1つ目は意外と忙しいということです。進学振分け直後の2年生の後期はさほどではありませんが、3年生になると週3回の実験と週2回の演習が入ってきます(演習は必修の講義で学んだ内容の問題演習をする授業です)。実験はほぼ隔週ですが、レポートがあり、演習も予習が不可欠なので忙しくなります。2つ目は卒業論文を書かないということです。3つ目は他学部とは違い、単位の都合上、4年生でも授業を取るということです。詳しくは物理学科のホームページの カリキュラムのところ に書いてあるので各々確認してください。

図3

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図3: Physics Lab. 2011ポスター

「百聞は一見に如かず」と言いますので、物理学科がどういうところか実際に見に行ってみる機会があるとよいですよね。物理学科では毎年五月祭で学部生の有志が自主的に研究活動をしてその成果を発表する学術展示企画"Physics Lab."を実施しています。これは学部生が主体となって、まず理論の勉強会をし、実験計画の立案から実験・データ解析に至るまでほぼ全て学部生が行っている企画です。実際に学部生と話してみることで学科の雰囲気が感じられると思います。そして、物理学科に入ると今度はみなさんがこの企画に入って活動する側になります。そういえば、理学部に入ると自分の好きなことが研究できる、と先程書きましたが、この"Physics Lab."が良い例かもしれません。学部生のうちから自分の好きなことを研究できる機会が与えられることは非常に良いことだと思います。また、当日は一般の人に理解していただけるように説明する必要があり、これがかなり難しいのですが、将来そういった説明をする機会があったときのよい予行練習になると思います。来場者に配布する冊子や告知用のポスター、動画を作成したりするというデザイン系のお仕事もあるので、デザインの練習もできるかもしれません。僕は2011年度の副責任者をしていて、研究活動に関わりながら、冊子の作成や広報活動をメインに行っていました。将来自分で論文を書く際には自分で挿絵を描いたりしなければならなくなります。そういう時にこの五月祭での活動が役立ってくるかもしれません。

物理学科の話が一番長くなってしまいましたね。ともかく、物理学科はいろんな人がいてとても楽しいところですし、個人的にはこの学科を選んでよかったと思っています。物理を基礎からしっかり勉強したい、素粒子物理学を勉強したいという人に物理学科がオススメですし、わからないことは徹底的にわかるまで考えて分かったその瞬間がたまらなく楽しいという人に理学部がオススメです。とても良い環境がそろっています。みなさんのお越しをお待ちしております。

講演後のパネルディスカッションの際に「駒場時代にやっておけばよかった、もしくはやっておいてよかったことはありますか?」という質問がありました。必修の数学や物理なんかは勉強していましたが、総合科目や主題科目などでもっと幅広く勉強しておけばよかったかなと思っています。得た知識がどこで役に立つかもわからないし、知っていることが多いというのが強みになるからです。反対にやっておいてよかったなと思ったのは第2外国語のドイツ語でした。今は液晶の実験を行っているのですが、その元ネタになっている論文が実は1900年に出たドイツ語の論文でした。第2次大戦前の論文には英語以外のものも多数あるので、意外にも第2外国語が役立ったりするのです。