パネルディスカッション「なぜ私は理学を選んだか」

化学専攻修士課程2年 川越 美規

1年生の皆さんに向けたガイダンスということで、私が進学振り分けのころに考えていたことや、実際の進学後の生活についてお話ししたいと思います。

まず、自己紹介をさせていただきます。 私は理科一類から理学部化学科に進学し、そのまま大学院の理学系研究科化学専攻に進学しました。今修士課程の二年生です。 研究室では超分子化学という分野を専攻しています。あまり耳慣れない分野かもしれませんが、水素結合や配位結合等を使って、分子マシンや分子カプセル等の複雑な構造を作り上げる分野です。出来上がるものが複雑なので、様々な測定や知識を組み合わせて研究を行うのですが、そこがやりがいのあるところだと思っています。 来年からは民間企業で研究者として働く予定です。理学部に進学しても就職先に困る心配はない、という話をいろいろな先生方がおっしゃっていますが、実際私も修士卒で就職をする一人です。就職に関していうと、化学専攻の修士学生はだいたい半分弱の人がドクターに進学して、残り半分は就職をします。化学系の研究職というのは企業でもそこそこの人数がいるので、化学科においては民間企業で研究職になる人というのは多数派なのかな、と思います。

さて、ここでみなさんに質問です。 既に「理学部に行きたい」「化学科に行きたい」と心を決めている人はいますでしょうか?おそらく、ここに来ている人はまだ進学どうしよう、と悩んでいる人が多いと思います。行きたい学部が決まっているのであれば、講演会を聞きにくるよりも点数を上げるために勉強したり、サークル活動をがんばったりと、他のことに興味を持つのではないでしょうか。 私自身も1年生の時には絶対に理学部に行きたい、という思いがあったわけではないです。 なので、今日は理学部が絶対に良い、という話ではなく、様々な学部を視野に入れていた私が何を考えて学部を選び、その結果どうなったかについて、1つの例としてお話しできれば良いと考えています。

まず、進学前の大学1、2年生の時のことからお話しします。 大学入学直後は、ただ漠然と数理科学全般に興味を持っていたのですが、全学ゼミで研究室にお邪魔したり、様々な講演を聴いたりしているうちに化学の「新しいものを作り出していく」という部分に心を惹かれ、化学を専攻したいという気持ちが強くなりました。 化学をやりたい、と思っても、東大の中には化学が学べる学科がたくさんあります。理学部だけでなく薬学部や工学部、農学部の中に化学系の研究ができる学科があります。特に、工学部の応用化学科と理学部の化学科の二つは、比較的学科の特徴が似ていて、違いがよくわかりませんでした。 「いろいろな学科があって良くわからない!」と思っていたので、実際にその学科を見てみよう、と本郷の研究に触れられる授業は積極的にとっていました。 未だにこの二つの学科の違いは私にもきちんとは説明できないのですが、ひとつ印象に残っている話として、化学科のガイダンスの際に当時の専攻長の先生から伺った話があります。 工学部と理学部の化学、何が違うんですか?と聞いてみたところ、「カリキュラムには特に違いはないね」という話でした。授業名だけをみていると、どちらかにしかないような科目もあるのですが、同じような内容は必ずどこかの単元で触れて、例えば、工学部のコンピューター演習は理学部の物理化学実験の中の1つとして行う、ということでした。 本当に違いはないのか、さらに聞いてみたところ「一番違うのはいる学生が興味を持つものだ」とおっしゃいました。 理学部の学生はなぜそうなるのか、原因や論理を知りたいと考える学生が多いのに対して、工学部の学生は新しいものに対する興味が高いということでした。今日の講演者の方を見ていても、理学部の特徴というのは良く現れていると思います。化学科に限らず、物理などの他の学科においても、こういう傾向はあるのではないかな、と思います。 先生がおっしゃることには、学生が興味を持つものが異なるため授業の進め方も変わっていき、理学部では基礎からきちんと組み立てて授業を行い、工学部では新しいトピックに結びつけて話をするとのことでした。 結局、この一言をきっかけに考えてみて、私は理学部の方があっているのではないかと思い、理学部化学科に進学を決めました。 実際に、理学部の仲間は好奇心が強く、学究肌の人が多いように感じます。こういった仲間に囲まれて過ごせたことは、ひとつの財産になると思います。

さて、進学後の話をしたいと思います。 化学科の三年生は、午前中に2コマの授業、午後に実験という規則正しいカリキュラムになっていて、駒場で自由に授業をとっている皆さんからすると、高校生の頃に戻ったような感じかも知れません。ですが、実験が終わった後は比較的自由な時間がながくとれるため、サークルやバイト等は行いやすいカリキュラムなのではないかと思います。 私は、実験終了後はレポートを書いたり、友人と遊んだりして過ごしていました。化学科の建物のすぐ隣が御殿下の体育館になるので、3年生の頃はよく友人と卓球をしにいくことも多かったです。 規則正しい、とはいいながらも、五月祭で実験展示やビール園を行ったり、学科内のソフトボール大会や理学部全体の交歓会などのイベントがあったり、年度末には研究室見学が毎日のようにあったりと、あまり単調な生活を送ったという印象はありません。

4年生になると研究室配属があり、一日のほとんどを研究室で過ごすようになります。私が配属された研究室では当時、分子サイズのボールベアリングやクランク、分子カプセル、DNAをつかった金属配列などについて研究をしていました。配位結合をつかって自由自在に分子をくみ上げる様子に感動し、この研究室を選びました。 授業等で話を聴いていて分子カプセルに興味を持っていたので、研究室に配属された際に、教授に「分子カプセルをやりたいです!」とお願いしてみました。 その結果、「もっと大きいカプセルに興味はない??」と言われ、新しいテーマに挑戦することになりました。

先ほど紹介した分子カプセルは、頂点の金属イオンが6個と面の配位子が8個組み上がることによってできあがっていましたが、私の研究するカプセルでは、疎水性相互作用で1000個以上の分子が集まって、以前のものよりもずっと大きい構造を作っています。このサイズになると、電子顕微鏡等で確認することもできるため、研究としては全く違う手法を使うことになります。これまで私の研究室では使われてこなかった様々な機械を使いながら研究を行っています。 以前のカプセルとは設計方針が違うので、うまくいかないこともたくさんありますが、その分良い結果が出た時はうれしいものです。

研究室での日常は、化学系の宿命で、平日は朝から夜まで研究室で実験を続ける毎日です。ですが、夏には研究室のメンバーで旅行に行ったり、研究室対抗のソフトボール大会に向けて練習をしたり、学会発表で様々な大学の人と知り合ったり、と充実した毎日を送っています。

最後になりますが、進学振り分けの際に、私自身の反省を含めたメッセージがあります。それは、どんな研究室があるのかを視野に入れて学科選びをした方が良い、ということです。学科全体がどのようなところなのかも重要ですが、修士課程や博士課程でも同じ学科に残るとすると、研究室に配属されてからの方がずっと長い時間を過ごすことになります。研究室選びの際に後悔のないように、はじめから自分の興味のある研究をやっている研究室があることを確認しておくのが良いと思います。 東大には理学部だけでなく、すばらしい研究をしている研究室がたくさんあります。なので、そういうところを見て、他の学部に行きたい、と思うこともあるでしょう。それは全く悪いことではないと思います。ただ、もしも、比較した結果、理学部に来てもらえたら、とてもうれしいです。みなさんでよりよい研究を作り上げていましょう。