大気の中にはその性質が比較的一様な「気団」があり,これを分けるように, 温度や湿度が急変する細長く延びた領域がある。このような気団を隔てる境目を「前線」という。
天気予報の中で前線はよく低気圧とともに登場し,悪天をもたらす原因として知られている。高等学校の地学の教科書には,前線が南北にうねりはじめて寒冷前線と温暖前線を伴った低気圧が発達し,さらに最盛期を迎えて閉塞前線を形成していくという温帯低気圧の一生の解説図が載っていることもあるが,この考え方は20世紀初頭にビヤクネス(J. Bjerknes)らによって提唱されたノルウェー学派モデルに基づいたものである。
今なお有用なモデルであるが,その後の気象学の進歩によりいくつかの重要な点で認識が変わってきた。まず,このモデルでは前線から低気圧が生まれるという過程をたどるが,現在の認識では,水平温度勾配(必ずしも前線のような大きな温度勾配を必要としない)から「傾圧不安定」の仕組みによって低気圧が発達し,前線はそれに伴って形成されるという考え方が基本となっている。また, 1980年代にはシャピロ(M. A. Shapiro) らが低気圧のモデルを提唱したが,このモデルでは温暖前線と寒冷前線は低気圧の近辺で接続しておらず,最盛期以降になっても閉塞前線は形成されない。すべての温帯低気圧に対する形態の認識がこのモデルに置き換わってしまったわけではないが, 低気圧に伴う前線の形態に関する認識に大きな変化をもたらし,この見方に基づいた前線の研究は現在も盛んに行われている。
ノルウェー学派モデルで考えられたように,前線に伴って擾乱や低気圧が発生する現象を「前線不安定」あるいは「前線波動」とよぶ。温帯低気圧が前線不安定によって発達するとは考えられなくなったが,より小さな規模では前線の不安定性によって発達したと考えられる擾乱・渦・低気圧が見られる。とくに前線上に二次的に発生する低気圧は,時として急速に発達することもあり多くの研究が続けられている。
海洋研究所海洋物理学部門海洋大気力学分野では,大気の中小規模現象の研究として前線が本質的な役割を果たす現象の研究が進められている。
