体内時計の分子機構解明により井上研究奨励賞を受賞

深田 吉孝(生物化学専攻 教授)

図1
平野有沙特任助教

生物化学専攻の平野有沙さん(特任助教)が,第30回井上研究奨励賞を受賞しました。生物化学専攻の博士課程において「時計タンパク質CRYの翻訳後修飾によるマウス体内時計の24時間リズム形成」という題名で学位論文を執筆し,その研究内容が高く評価された結果です。この学位論文で平野さんは,体内時計の分子的な仕組みを明らかにしました。ヒトを含めた動物の全身の細胞には約24時間を1サイクルとする体内時計(概日時計とよばれます)が存在し,一日サイクルのリズミックな生理機能を制御しています(2013年7月号研究ニュース参照)。平野さんは,マウスの概日時計において中枢的な役割を果たすタンパク質 CRYの量が一日周期で増加と減少をくりかえす分子メカニズムを明らかにしました。なかでも重要な発見は,タンパク質のユビキチン化修飾を触媒する二つのF-boxタンパク質FBXL3とFBXL21が,意外なことにそれぞれCRYの「分解」と「安定化」という反対の効果をもつことを見出したことです。この競合作用するFBXL3とFBXL21を遺伝的に失うと,マウスの活動サイクルなどの規則正しい日周リズムが崩れ,寝たり醒めたりをくりかえす行動異常を示すことを見出し,概日時計の安定な発振にFBXL3とFBXL21が必要不可欠であることを示しました。平野さんの研究成果で特筆すべきは,本成果が体内時計の研究分野だけではなく,ユビキチン化修飾の研究分野においても新しい概念につながる強いインパクトを与えたことです。ご存知のように2004年のノーベル化学賞は「ユビキチンによるタンパク質が分解される仕組みの発見」で3人の研究者に与えられました。つまりユビキチン化修飾は「タンパク質の分解の標識」として認識されてきました。ユビキチン化によってタンパク質が安定化されるという予想外の作用を発見し,その生理的意義を行動リズムという個体レベルの出力で明らかにしたことが国内外から高い評価を受け,今回の受賞につながったのだと思います。

このほか,理学系研究科をご卒業されました,新領域創成科学研究科 日本学術振興会特別研究員 田中若奈さん(生物科学専攻),総合研究博物館 特任助教 小藪大輔さん(生物科学専攻),東京工業大学大学院理工学研究科 日本学術振興会特別研究員 平野照幸さん(地球惑星科学専攻)らも,井上研究奨励賞を受賞されました。誠におめでとうございます。(広報誌編集委員会)