研究スタイル

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数学の応用

将来的な株価を正確に予測できれば、投資家が計画的に投資したり、企業の資金調達が楽になるだろう。そもそも証券市場といった仕組みそのものが存在しなくなるかもしれない。予測できないからこそ、証券市場の中で、投資家はより将来性の高い企業に投資したり、企業は資金調達のために経営の透明化を図るのである。

そうした株などのファイナンスの問題に対し、確率解析の理論を使ってモデルの構築などの研究を行っているのが、数理科学研究科の楠岡成雄教授である。一方、統計学という観点から不確実な現象を捉え、理論化しようというのが、同研究科の吉田朋広教授である。この分野は数理ファイナンスや保険数理(アクチュアリー)と呼ばれ、ここ数年で理論が体系化されつつある新しい学問分野である。

数学は、物理学や化学など現実的なものを研究対象とするほかの理学を支える基礎科学、もしくはインフラとしての役割を期待されていた。結果、数学と研究対象としての実社会との関係はどちらかというと希薄であった。それに対し、ファイナンスの分野は、直接実社会への応用分野にかかわる数学の学問分野であることが特徴である。

フィールドワーク

理学部というと、理論研究のため机に向かって数式やデータと格闘したり、実験のため研究室にこもって観察や測定にいそしむといったイメージが強いかもしれない。しかし、フィールドワークを研究のベースにしている分野も多い。フィールドワークとは、研究室を飛び出し、数日から数週間にわたって国内や海外に出かけ、現地を調査したり、研究に必要な資料を採取したり、観測したりすること。

ここでは、サンゴ礁から地球環境を読み解く研究と、人類の起源と将来像を人骨から探る研究を紹介する。

地球惑星科学専攻の茅根創助教授は、地球表層環境の構造と変化のメカニズムを解明するため、学科の授業が休みとなる春と夏の年2回、石垣島やパラオを訪れ、サンゴ礁の現地調査を行っている。一方、生物科学専攻の近藤修助教授は、人類の進化などを人骨の形態から解明するため、年間の約2カ月間をシリアや中国、北海道など国内外での発掘・調査に費やしている。

いずれもフィールドワークで得た情報を研究室に持ち帰り、解析や分析などを行っているが、フィールドワークなくしては、新たな発見や研究の進展はありえない研究スタイルなのだ。

生命現象の可視化

生きた細胞の中の膜系の動きや物質が輸送される様子を実際に目で見ること(可視化)にチャレンジしているのが、中野明彦教授と佐藤守俊講師だ。

中野は主に「タンパク質の細胞内輸送」の研究に取り組みながら、その現象を実際に目で見たいという欲求から、高感度高速共焦点レーザー顕微鏡を開発している。佐藤は、「生体分子の先端的可視化計測法」を確立するために蛍光プローブの開発を行っている。

プローブとは、ある物質の存在を確認するための手がかりに用いる物質のこと。蛍光プローブは蛍光を発するプローブで、クラゲの緑色蛍光タンパク質とその類縁体が現在ライフサイエンスの分野で広く用いられている。

これらを特定の膜系に発現させたり、分子同士の相互作用があるときだけ光るようにデザインして中野と佐藤は活用している。

生きた細胞内のタンパク質分子の動態や相互作用が可視化できるようになると、新たな研究がブレークスルーするきっかけにもなるという。ここでは、異なるアプローチで可視化に取り組む2人の研究者と、その研究が目指すもの、そしてそれにより研究ステージがどのように高まるかを紹介する。

数値シミュレーションによる理論研究

コンピュータ技術の劇的な向上に伴い、宇宙や地球、原子や原子核といった極端なスケールを扱う研究者にとって、もはやコンピュータを使った数値シミュレーションはなくてはならないものとなっている。シミュレーションを行うことによって、その内容を分析したり、仮説を実証するなど、観測や実験だけでは得られない数多くの事実を明らかにできるからだ。

宇宙のメカニズムや原子核の状態など観測や観察が不可能な領域も、コンピュータにより映像として見ることができる。さらに、実験ではつくり出すことができない超高圧状態や超新星爆発中の原子核なども、コンピュータ上であればつくり出すことができるのだ。ただし、それにはシミュレーションを行うベースとなる理論も重要となってくる。

従来であれば、システムの構築は工学系の研究者、理論や観測を扱うのは理学系の研究者というように、専門分野が分かれていたが、最近はシミュレーションがコネクションとなり、両者の共同研究も増えている。

ここでは、シミュレーションを活用し、大きな研究成果を上げている4人の研究者を紹介する。

宇宙と物質の根源の理論研究

現代の宇宙論において宇宙の始まりを論じる際、宇宙の歴史はビッグバンにより始まったとされる「ビッグバン宇宙論」が主流である。

そのビッグバン(Big Bang)のきっかけを解明することに挑戦しているのが佐藤勝彦教授である。佐藤の提唱した理論は、指数関数的宇宙膨張モデル=インフレーション理論と呼ばれ、ビッグバン理論の問題点を解決することに大きく寄与している。

一方、我々の世界を取り巻く様々な力を統一し、1つの理論で説明しようとする試みが「統一場理論」である。それを解明する糸口となると言われている超弦理論を追求し、素粒子という極小な物質のあり方から宇宙の成り立ちを解明しようとしているのが、松尾泰助教授だ。

果てのない広大な世界を論じる宇宙論と原子や電子など物質を構成する最小単位の世界を論じる素粒子論、マクロとミクロの両方の視点から、宇宙という遠大な姿を垣間見ることができる。いずれも、私たちをとりまく世界とは、自然とは、宇宙とはいったい何かという、素朴かつ奥の深い、人類にとっての永遠のテーマを追求する研究につながっている。

大気圏外からの天体観測

ここでは天文学専攻の尾中敬教授、地球惑星科学専攻の吉川一朗助教授、そして物理学専攻の牧島一夫教授を紹介する。共通点は人工衛星に自ら開発した観測装置を積み、我々の目には見えず、そして、地上には届かない光を捉えている点だ。

1970年に始まる日本最初の科学衛星の打ち上げは、東京大学宇宙航空研究所が行った偉業であった。それには東京大学の工学部や理学部の研究者、大学院生が大きく貢献した。その後81年に宇宙航空研究所は、文部省直轄の宇宙科学研究所となり、2003年には宇宙開発事業団などと統合されてJAXAとなったが、この間、一貫して東京大学は宇宙科学研究所と緊密な協力体制を保ち、研究者や大学院生は、科学衛星の開発、打ち上げ、運用などに多大な貢献を行ってきた。

人工衛星による観測は、地上観測では想像できない困難を伴う。さらに打ち上げに失敗したり、観測装置がうまく作動しなければ、それまでの何年もの努力が水泡に帰す。

そうしたぎりぎりの緊張にさらされる反面、得られる果実も大きい。そして何より、宇宙には観測家たちを魅了してやまないロマンがある。