河東泰之 教授(数学科)

河東泰之 教授 (数学科)

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教授インタビュー

PROFILE

数理科学研究科 作用素環論専攻 河東泰之 教授
河東泰之教授
1987年東京大学大学院理学系研究科数学専攻修士課程修了。 '89年UCLA博士号取得。'90年東京大学にて理学博士号取得。 '89年東京大学理学部助手。 '91年ミラー・リサーチ フェロー(カリフォルニア大学バークレー校)、'98年ローマ大学客員教授を経て、'99年から現職。

望遠鏡を覗いているだけでは、宇宙がどうやってできたかは分からない。宇宙はもちろん、量子コンピュータも、話題のヒッグス粒子も、その解明を可能にするものは最高レベルの「数学」である。それも時に、たったひとりの数学者の解明した理論がそれを可能にする。数学は、いわば科学の発展を支える孤高の知性であると言えるだろう。

河東泰之教授の研究領域は作用素環論、特にフォン・ノイマン環の理論における サブファクター理論と代数的場の量子論、さらにこれらと他の分野 (量子群、三次元トポロジー、共形場理論、可解格子模型、頂点作用素代数など) との関連である。ヒッグス粒子の質量や、量子コンピュータ、さらには量子通信も作用素環論に関係する、あるいはその応用研究であると言える。

「数学の魅力をただひとつ挙げるとするならば、"面白い"というところにつきると思います。つまり、研究者が、紙に書かれた数式の海の中で、心の底から感動して自分の発見と付き合うことができる。もちろん、それが何かの役に立つかということにおいてはいろんな基準がありますが、広い意味で言えば、宇宙の構造を理解するということにすら貢献できる、非常に創造的な学問であると言えるでしょう」

作用素環論は、大まかに言えば行列が無限になったものを指す。背景には微分方程式、量子力学がある。20世紀前半に成立した、数学としては新しい分野だ。創始者のひとりがジョン・フォン・ノイマンであり、原爆開発やコンピュータの第一人者であった。

「過去の様々な数学者がそうであったように、穏やかな昼下がりの散歩の最中にパッと思いついたことが、歴史をひっくり返すほどの発見に繫がることだってあります。その奇跡のような瞬間と数カ月で出会う人もいれば、10年考えてようやくその一部が解けるという人もいる。でも、その瞬間のためだけに研究をするのではなく、ただ解き続けることが面白がれること、そうしたある種の純粋さが数学者の資質と言えば資質じゃないでしょうか」

数学者にとっては数式とたった一人で向き合うことが、実験であり、研究であり、そして発見である。基本的には共同研究などは存在しない、孤独な世界であると言えるだろう。しかし河東研究室の雰囲気はなごやかで、学生からの支持も厚い。学生同士が勉強会を開くほか、アメリカやイタリア、フランスなど世界各国で開かれる学会や講演に学生とともに出かける機会も多い。数学はまさに世界共通言語である。そして、河東教授は他の研究領域との共同研究にも積極的だ。

「意外な出会いから新しい研究領域が生まれていくのは科学の常。無関係だと思っていた分野の人が近い研究をやっていた、なんてことは往々にしてあります。私の研究の場合は頂点作用素代数がそうでした。だから私は、違う分野の人達と交流をすることには積極的でありたいと思っています。たとえば、アメリカ、カナダ、デンマークなどからの留学生も積極的に受け入れています。孤独な研究ではありますが、範囲を狭めるのではなく、広げていくほうが面白いと考えているんです」

数式を愛することと、出会いを愛すること。そうやって学問としての楽しさを広げていける。そんな楽しみが河東研究室には満ちている。

古川研

「α誘導」と呼ばれる作用素環論の手法から導かれる行列が、「モジュラー不変性」と呼ばれる性質を持つことを証明するステップのひとつ。現代数学における「計算」の一例である。

photo/稲田 平 text/森オウジ