石川裕 教授(情報科学科)

石川裕 教授 (情報科学科)

科学は、1番でなければ意味がない。
教授インタビュー

PROFILE

情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻
石川裕 教授
河東泰之教授
1982年慶應義塾大学工学部電気工学科卒業、'87年同大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了。 '88年米国カーネギーメロン大学客員研究員、2002年東京大学大学院情報理工学系研究科助教授、'06年より現職。 '10年東京大学情報基盤センター長に就任。 理化学研究所の役職も兼務。

1970年代は、科学技術が社会の大きな関心を集めた時代だった。アポロ11号の月面着陸といった、'60年代の終わりに起きた画期的な出来事が、新時代の幕開けを予感させた。同時に、コンピュータが少しずつ人々の話題にのぼるようになってきた時代でもある。'70年代後半には、マイコンゲームが機械好きのあいだで注目を集めていた。工作少年だった石川教授は、大学入学前の'77年、念願のマイコンボードを手に入れた。

「マイコンいじりを始めたら、ソフトウエアは何でも自由につくれるのがとにかく面白くて、そのころには大学でコンピュータをやろうと決めていました。大学時代はアルバイト小僧で、アーケードゲームをつくって小遣いを稼いだこともあります。コンピュータで何かをつくるのが根っから好きなんですね」

石川教授は、一貫してOS周りのコンピュータの基盤ソフトウエアを手掛けてきた。

「マイコンは、一から全部つくるしかないし、計算資源も限られていて、ユーザーインターフェイスに凝るようなこともできなかった。ソフトウエアで、いかにハードウエアの性能を引き出すかをずっと考えてきました」

'93年から通商産業省(当時)傘下の技術研究組合に所属し、国家プロジェクトに参画していた。そこでは、コンピュータを高速ネットワークでつなぎ、並列処理でスーパーコンピュータ並みの性能を目指すクラスタシステムソフトウエアの開発に従事していた。

「誰も考えていないような新しい発想でつくったソフトウエアは、高い評価を受け、日米欧の国立研究機関や大学で採用されました。誰にも真似のできないものをつくり上げて多くの人に使ってもらえた喜びは、忘れることができません。東大に来てからも同じようなことをやりたいと思っていますが、学生の研究と普及活動を両立させるのが難しく、そこを克服するのが目下の課題です」

コンピュータと科学が交わる領域には、大きく2つの分野がある。一つは、コンピュータや情報そのものを学問として扱う「計算機科学(Computer Science)」で、情報科学科もこちらに属している。「理学」としてコンピュータを学ぶ意味は、情報や計算機の視点から、計算や知能の本質に迫ることにある。

もう一つは、コンピュータを研究に活用する「計算科学(Computational Science)」だ。地震や津波、気候変動、惑星誕生のシミュレーションや、ゲノム解析が代表例で、「計算機科学」の立場からはユーザーにあたる。

石川教授は、東大のスーパーコンピュータを運用する情報基盤センターのセンター長と、世界最速の計算速度を誇る理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」の研究チーム長も兼務している。2012年4月に更新された東大のスーパーコンピュータには、「京」の改良版を採用した。最先端の計算機を使うことで、「計算科学」の諸研究が、さらに進展することが期待される。

「科学技術は1番をとらなければ意味がない。2番でいいというのであれば、人の成果に乗るしかありません。自然資源の乏しい日本では知的資源こそが宝です。そのためには、最先端の設備を持つことが何より重要です」

世界一を維持するには、立ち止まることは許されない。「京」の次世代のスーパーコンピュータの開発準備も、石川教授が中心となって、すでに動き始めている。

年2回世界のスパコンの性能ランキングを公表しているtop500サイトの統計情報。2018年前後には1 EFlops (Exa Flops: 1秒間に1018回小数点計算可能)に達すると予測されている。これは京コンピュータの100倍の性能。出典:http://www.top500.org

情報基盤センターに設置中のスパコン。京コンピュータの商用版で、1/10の性能を有する。写真で見えるケーブルの全長は42.916Kmでフルマラソンの距離に匹敵する。総部品点数は約1000万点。

photo/貝塚純一 text/萱原正嗣