有田正規 准教授(生物情報科学科)

有田正規 准教授(生物情報科学科)

生物を計算し尽くす孤高のプログラマー。
教授インタビュー

PROFILE

理学系研究科 生物化学専攻 有田正規 准教授
植田信太郎 教授
1999年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻満期退学。のち理学博士号取得。 2001年経済産業省産業技術総合研究所生命情報科学研究センター研究員などを経て現職。 理化学研究所植物科学研究センターメタボローム研究推進部門副部門長兼任。

"生物を計算・解析する"ということを一般的にイメージしやすいものに、遺伝子、つまりゲノミクスの考え方がある。ヒトゲノムは30億塩基あると言われている。この配列が、生命の在り方を決定づける計算式であるという考え方だ。

かつて、この30億塩基、つまり3ギガ塩基の研究はスーパーコンピュータなしでは不可能な領域であった。しかしテクノロジーは日進月歩。現在では8ギガバイトのメモリを持つラップトップパソコンは10万円前後で買うことができる。そう、ヒトゲノムの解析は、通勤電車の膝の上ですら可能な時代なのだ。そんな時代におけるバイオインフォマティクス、つまり生物情報科学の進化を導く領域が、有田准教授の研究領域である。

バイオインフォマティクスは遺伝子の配列の研究に端を発する。そのなかでも、植物や動物の遺伝子の配列を読み取って、計算機で解析するというプロセスにおける、計算機サイドの研究だ。

「僕はデータベース構築、そしてアイデンティフィケーション、つまり物質の同定の手伝いをしています。たとえば何らかの代謝物を計測するときには、まず質量分析計を使います。しかし、それによって得られる情報は質量のみ。よって、質量からどの代謝物かを特定する必要があります。そのとき必要になってくるのが、どんな代謝物がどれくらいの質量を持っているかが分かるデータベースです。そこを作るのが私の仕事です」

有田准教授の専門領域はメタボロミクス。細胞の中にどんな代謝物があるかを解析する分野である(関連する物質として一般的によく知られているものに、次世代エネルギーとして注目されているバイオ燃料がある)。一見、ずいぶん研究が進んでいる分野のように思われがちだが、実は細胞の中にどんな物質がどれだけ入っているのか、と問われれば、誰も答えられない。まだまだ広大なフロンティアを有している領域だ。そしてそのフロンティアを切り開くにはデータベース、そして検索エンジンの研究が欠かせない。

「データベースの在り方を前進させようと思っています。今までのデータベースは一極集中型で、とにかくデータを一ヵ所に集めればいいというスタイルでした。ですがこれからは、いかにローコストを維持しながら、身のまわりの事例と専門的なデータをつないでユーザビリティを上げていくかが重要になってきます。そこで僕はブラウザ上でデータの変更・管理・検索ができるWikiというシステムを使って、今までとは違うデータベースの在り方を提案しているんです」

この領域にとってのいわば応用研究というのは、このデータベースが共有財産として世界中で使われることを通して、時代と世界を変える発見や発明に貢献すること。そのためのユーザビリティとクオリティーなのだ。

ラップトップで数字を追いかける膨大な作業の先に、世界を変えるチャンスを生み出す。時代の躍動感を肌で感じることができる、クリエイティブな研究領域であると言えるだろう。

代謝物のカテゴリーに、カテキンやルチンといった物質で有名な、フラボノイドがある。これはどのフラボノイドがどんな植物に含まれているかの相関図の一例として、シソのフラボノイドのネットワークを表している。中央で連結している様子が見て取れる。

photo/貝塚純一 text/森オウジ