分子レベルのものづくりで日本の基礎研究に貢献
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分子レベルのものづくりで日本の基礎研究に貢献
中村 優希さん
理学系研究科 化学専攻 博士課程2年
– 修士課程と博士課程では研究内容を変更したそうですね。
修士課程では、カーボンナノチューブやフラーレンなど「炭素クラスター」を化学修飾することで、新しい機能を持った分子を作り出す研究を進めていました。
例えば、私が所属している中村研究室では、1993年に、通常は水に溶けないフラーレンを化学修飾することで、水溶性フラーレンの合成に成功しました。
2010年2月には、アミノ基を有する水溶性フラーレン(TPFE)を使うことで、糖尿病の治療に使うインスリンの遺伝子導入が行える可能性を実験で実証しています。今まで遺伝子治療にはウイルスなどが使われてきましたが、安定性や病原性の面で問題がありました。
それに対して、TPFEは毒性が低く、安価で大量合成できるので、今後の医療現場への応用が期待されています。
新機能を持つ炭素クラスターの開発は、医療分野だけでなく有機エレクトロニクス分野でも期待が高まっています。柔軟性のある太陽電池や有機ELディスプレーを開発できるようになるかもしれないからです。しかし、炭素クラスターは、ほかの有機分子に比べて特異的な反応性を持っています。そこで、もっと一般的な有機分子の合成方法を研究したいと考えました。
博士課程からは、「反応開発」の研究に移行しています。反応開発とは、化学反応のプロセスや方法そのものを研究開発することです。
例えば、化合物を生成する際の複数の工程を、できるだけ簡便に生成できるようにします。現在は、がん治療に有効とされているフッ化アリールなど、フッ素を含む化合物の簡便な合成法の確立を目指しています。
– どのようなアプローチで反応開発を研究しているのでしょうか。
フラーレン誘導体は、太陽電池における電子輸送材やシャトルコック型液晶等の機能性材料として応用が期待される。また、ラジカル捕捉剤や遺伝子キャリアーとして機能するフラーレン誘導体にフッ素化反応を適用し、フッ素をフラーレン上の置換基に導入することで得られた生成物が、抗がん剤としての生理活性を示す可能性も期待される
関連文献を調査して、現在どのような方法で化学合成が行われているのかを調べます。次にその問題点などを洗い出し、より最適な化学合成の方法を検討します。例えば、触媒反応に関しては、金属錯体の配位子や金属の種類などの検討を進めているところです。実験や計算で配位子や反応剤を替えて、有用性を比較するなど、様々な角度から研究に取り組む必要があります。
– 大学まで米国で過ごしたそうですが、大学院はどのように選びましたか。
資源の少ない日本に、基礎研究の分野で貢献したいと考えていました。そこで、カリフォルニア大学バークレー校の3年次の夏休みに、2カ月間のインターン制度で東京大学の中村研究室に留学。特に米国では、人脈作りが重視されているため、学部生で通った大学の大学院に進学する人はほとんどいません。同じところに留まると人脈が広がらず不利だとされるからです。
中村研究室は、中国、ポーランド、フランス、スウェーデン、ルーマニアなど様々な国からの留学生がいます。各国に人脈が広がりますし、英語で話す機会も多く、語学鍛錬にもなります。研究室ではカーボンナノチューブに2本足型の分子を詰めてそれが動く様子を電子顕微鏡で見ることに成功しています。長年、化学者が夢見てきた「1分子の挙動や反応を自分の目で見る」ことがすでに現実となってきているのです。
今後は、新たに開発した合成法を、幅広い生理活性物質、機能性材料の開発に生かしたいと考えています。
My schedule
論文の最終仕上げに取りかかっているある1日
| 7:30 | 起床。軽めの朝食をとりながら、1日のプランを立てる。 |
|---|---|
| 9:00 | 研究室へ到着。室内の掃除からスタート。 |
| 9:30 | 昨晩、仕込んだ反応をクエンチする。少量の溶液をサンプリングし、反応経過を解析するため解析機にサンプルをセット。 |
| 10:00 | 反応溶液の精製に取りかかった後、解析データをチェックする。 |
| 11:30 | 生協が混む前に、後輩とお昼ご飯を買いに行く。 |
| 12:30 | 食後は、科学雑誌サイトで最新の論文をチェック、その後、投稿予定の論文の下書きを見直しつつ、新しいデータを入力し直したり、今後必要な実験データを整理する。 |
| 15:30 | 実験ノートにこれから仕込む反応内容を記入し、必用な試薬の準備や器具の乾燥などに取りかかる。実験器具の設置完了後、必用な試薬を秤ではかりとり、試薬を順番に入れていく |
| 18:00 | 低温で1時間攪拌。その合間に、夜ご飯を食堂で。 |
| 19:00 | 低温バスから反応を取り出し、室温に戻ったら、残りの反応剤の調整に取りかかる。すべての試薬を入れ終え、ガラス器具を密閉し、オーバーナイトで攪拌。 |
| 20:00 | 論文を見直しつつ、使った器具の片付けをして帰宅。 |
| 1:30 | 自宅にて論文の見直しをして、気付いたら1時を回っていた!明日も早いので、就寝。 |
Photo:岩崎美里 Text:山田久美

