縁の下のチカラモチ
縁の下のチカラモチ
「保護メガネ着用」と張り紙のあるドアを開けると、騒々しい音のなか2人の職員が学生たちの作業を見守っている。写真は旋盤を操作する大塚さん
理学部1号館中央棟地下1階にある「実験装置試作室」をご存じだろうか。理学部・理学系研究科の最先端の研究を支えるのがここで働く技術職員たちである。
「専門の企業を探して特注するよりも、ずっと早く安く仕上げてくれて非常に助かる」と評判で、訪れる学生や研究者は後を絶たない。時に厳しく時にやさしく、訪れる人たちに加工のコツや機材の使い方を教えるのは技術職員の大塚茂巳さんと南条良勝さんだ。最先端研究の「縁の下の力持ち」。実験装置試作室をのぞいてみた。
難しい装置の操作や精密なテクニックが要求される加工は、技術職員が作業を担当する。研究室から複雑な実験装置の製作を依頼されたときには、持ち込まれたアイデアを実現できる具体案を提案し、製作する。
この実験装置試作室に約20年間勤務し、いくつもの最先端の実験装置を制作している大塚さんは、「提案された装置がそのまま形になるなんてことはそうそうないですよ。"机上の理論"を実際の"モノ"にするのにはちょっとしたコツが必要だからね。実験に必要な機能を聞いて、それを実現できるような強度や仕様を考えて実際に組み立てられるように設計したり、加工したりするのも私たちの役目」と語った。
たいていの場合、実験装置は技術職員と学生たちの話し合いで設計が決まる。ホワイトボードに簡単な図が描かれ、研究室の意向を確認しながら仕様を決めるのだ。最終的には学生たちがグラフィックソフトなどで描いた設計図を技術職員に渡し製作をお願いする。こうして世界で唯一の装置が誕生するのだ。
試作室をよく利用するという大学院生は、次のように語った。
「私は物理実験の研究をしていますが、未知の物理現象を解明するために実験装置を自作することがよくあります。もちろん大掛かりな実験装置は専門の企業に製作を依頼しますが、"自作の測定回路を入れるためにちょうどいい形のケースを作りたい""自作の装置を組み上げるのに6つのねじ穴が空いたアルミの筒材が必要だが、そんな形状は売っていないし、特注すると高くつく"など様々な要望から、試作室の門を叩きます。
試作室には、ボール盤、旋盤、フライス盤、電動糸鋸、切断機など、材料加工に必要な機材がそろっています。そこの主が職人気質で気のいい大塚さんと南条さんで、多くの大学院生に慕われています。
実験系の大学院生は修士1年の春に試作室で講習を受け、機材の扱い方をひととおり教わります。このため、構造が簡単なパーツは大学院生が材料を持ち込んで自分で機材を使って加工することができるのです。技術職員のお二人は、しばしば私たちの不器用さに見かねて声をかけてくれます。先端の基礎科学は、この試作室によって支えられているのです」
(photograph by 真島 誠一)
大塚さんが携わった実験装置にTAMAプロジェクトの「重力波検出器」がある。この根幹をなす「ミラー懸架装置」は大塚さんが設計を行い、様々な性能試験を経て実験装置試作室で試作機(写真左)が完成した。この重力波検出器は、株式会社ニコンによって正式機材として制作され、実際にプロジェクト中の観測に使われている(写真右)。そして、プロジェクトの論文には、大塚さんの名前が共著者として刻まれている
設計図を見ながら材料を加工する南条さん

