女性もハッピーな理学部

女性もハッピーな理学部

育児支援室

ベビーベッドやベビーサークルを備えた育児支援室。理学部に所属するメンバーが利用できる

女性研究者と聞くと「結婚や子どもとは縁遠い女性」と思われがち。しかし理学部には、母親として子育てをしながら、研究者としても素晴らしい研究成果を挙げている女性研究者が何人もいる。物理学専攻の村尾美緒准教授も、そんな女性研究者の一人だ。

「『女性研究者は、仕事一筋、プライベートはすべて犠牲にしないと務まらないのでは?』などと思われがちですが、そんなことはありません。私は物理学者だったからこそ、物理を専攻していた夫と知り合うことができて、結婚し、子どもにも恵まれました。世界中の研究者と友だちになれたのも、研究者だからこそだと思っています」(村尾准教授)

生物科学専攻の伊藤恭子助教は、工学系の研究者である夫と米スタンフォード大学に留学中に妊娠。米国で出産し半年後に帰国したが、すぐに東京大学で採用された。

「最初はもう少し育児休暇を取ってから働くつもりだったのですが、ブランクができてしまうことが不安で。幸い、研究室の福田裕穂教授が『早く帰れるように自分で働き方を工夫してください。量ではなく、質の高い仕事をしてくれればいいから』と言ってくれたこともあり、すんなりと仕事を始めることができました」(伊藤助教)

村尾准教授も、大学の採用面接の時は妊娠中。9月に出産、産休中の10月に着任して11月から仕事を再開している。大学の教員は、その人が研究者としてどれだけの業績を挙げているかが第一。働き方を自分で工夫できるところもありがたい。

「研究室の仲間も協力してくれますし、何時から何時まで働くか、基本的に自分の裁量で仕事ができるのが研究者。特に、私のボスのように女性研究者に理解のある先生であれば、とても快適に働くことができます。うれしいのは、そのボスですら自分自身で選べる可能性があること。企業ではボスまで選べることはなかなかありません」(伊藤助教)

東京大学のなかでも、理学部は女性研究者や女子学生に向けた支援について、先進的かつ積極的に取り組んでいる。5、6年前にワーキンググループを発足させ、男女共同参画委員会へと発展。幼い子どもを持つ研究者のために、授乳用スペースを持つ休養室や、ベビーベッドやベビーサークル、子ども用の椅子とテーブルなどを備えた育児支援室を作った。研究棟内にこういった育児支援施設を整えているのは、理学部だけ。

また、研究者というロールモデルを示すため、女子学生に向けたガイダンスを実施。男女共同参画委員会のメンバーでもある村尾准教授はこう話す。

「日本では、まだまだ女性研究者は少なく、お手本となるロールモデルがあまりありません。特に私が専門とする物理学で先輩女性研究者といえば、キュリー夫人くらい(笑)。しかし、結婚や子育てがネックになって女性研究者や学生が増えないというのでは、貴重な人材の損失です。女性が少ない理学部だからこそ、女性に対する取り組みに一生懸命なのです」(村尾准教授)

本郷けやき保育園

2008年4月に開園した本郷けやき保育園

全学でも、2008年4月、本郷キャンパス内に保育園が開園。伊藤助教の息子も、この春からこの保育園に通う。キャンパス内の保育園ならば、仕事の合間に様子を見に行くこともできるし、子育て中の研究者同士のコミュニケーションの場としても期待される。

「理学部には子育てをしながら研究をしている博士課程の学生が何人かいて、彼女たちとはいろいろな情報交換をしてきました。初めての子育てで不安なことも多いですし、保育園でさらに多くのママ研究者たちと情報交換できれば心強いですね」(伊藤助教)

保育園に子どもを預けるのは、ママ研究者だけとは限らない。男性研究者が子どもを連れて登校し、保育園に預け、また子どもと一緒に帰る。そんな形で、男性研究者が育児に参加することもできるだろう。

このように環境整備が進んでいるとはいうものの、女性研究者ゆえの悩みも尽きない。毎日の育児と研究の両立は、家族と職場の理解があれば乗り切ることができる。だが、出産前後休むことで研究から離れてしまうことの不安は、二人とも感じていたという。

たとえ数カ月でも研究の最前線から離れると、取り残されてしまうのではないかという不安。そうした不安に対して、家にいながらでも情報をキャッチアップするシステムを整えるなど、研究面においてどうやって支援していくか。これから取り組まなければいけない重要な課題だと村尾准教授は言う。

「大事なことは、女性研究者にとってもハッピーな職場であること。脳がアイデアを生み出すのだから、脳はいつもハッピーな状況にあったほうがいいですよね。大学では既に『女性研究者を増やそう』という意識改革が進んでいます。肝心の女子学生たちも『研究者=男性』という固定概念にとらわれないで、将来の選択肢に『研究者』を加えてほしいですね」(村尾准教授)

母親としての経験が、実験でも役立っています

伊藤 恭子

理学系研究科・生物科学専攻
助教 伊藤 恭子

実験には料理のような一面もあり、同時に何品ものおかずを作るような感性も必要。「主婦感覚を持った研究者は貴重な存在」と言う伊藤助教。

物理学者も、ママも、どちらも心から楽しんでいます

村尾 美緒

理学系研究科・物理学専攻
准教授 村尾 美緒

一緒にいられる時間は短くても、6歳の息子は「ママが一番好き」と言ってくれる。その言葉にいつも癒やされている村尾准教授。

東京大学内の保育・育児支援施設

  • 東大本郷けやき保育園
  • 東大駒場Ⅱキャンパス保育園
  • 柏キャンパス保育園
  • 育児支援室

(photograph by 佐藤 久 / text by 牛島 美笛)