風が吹けば桶屋がもうかる

風が吹けば桶屋がもうかる

広報室副室長 横山 広美(科学コミュニケーション 准教授)

今回は,とくに学生や若い研究者のために,自らが取り組む研究の「内容」や「感動」を伝える基本的な技術を伝えたい。参考にするのは,有名なふたつの言葉である。

「風が吹けば桶屋がもうかる」―内容を伝える

一見,関係のないところに因果関係があることを示す言葉である。風が吹けば砂が舞い上がり,砂が目に入り,目が悪くなる人が増え,そのため三味線弾きで生計を立てる人が増え,三味線が売れる。三味線には猫の皮が必要だから猫が捕られ,それによってネズミが増え,桶がかじられる・・。したがって,風が吹けば桶屋がもうかる。

この文章の特徴は,風が吹けばという始まりから,桶屋がもうかるという結論まで,多くの段階を経て理解がつながることである。科学の内容を,初歩的部分であれ研究者と同じように「理解」してほしいと願うと,説明はどうしても多くの事実を積み重ねざるを得ない。研究者の卵を教育する教科書はまさに,このように書かれている。

その分野を専門とする学生はこの地道な勉強の道を避けては通れない。しかし学生や研究者以外の人にとって,科学はなじみのないものであり,研究者と同様の「理解」をする必要があるとは限らない。科学を伝える文章や発表は,何がこれまでの謎で,この研究によって何が新たにできたのか,そのおおよその内容を把握できればよい。

そこで科学を伝える記者たちは,結論から伝える。上記の文章で言うところの「桶屋がもうかる」と書いて,それはなぜなのかを説明していくのである。結論が先に書かれているのは,読者にとって負担のない構成だ。論文のアブストラクトも同様であろう。注意したいのは,すべての手順を書くわけではない,ということである。どこがポイントなのかを見極め,それを中心に書く。ポイントはひとつに限らない。しかし,それ以外のところは,上手に端折る。この端折り方には慣れが必要だ。

科学の内容を伝える際のポイントは

  • 結論から伝える
  • ポイントを絞って,すべての手順を書こうとしない

「秘すれば花なり」―感動を伝える

いやいや,自分は研究の内容を押し付けがましく伝えたいのではなく,このワクワク感を伝えたいんだ,という方もいるであろう。しかし,ただ「面白いんだよ!」と言うだけでは,面白さや感動は伝わるわけもない。ではどうするか。

科学の面白さを伝えるもっとも困難かつ重要な点のひとつは,感動を共有するための下地をつくることである。科学の感動は,同じ苦労を重ねてきた同じ分野の研究者同士で共有される。それは,知識はもちろん,その科学がもつ背景や歴史が共有されているからだ。

ここで,「秘すれば花なり 秘せずば花なるべからずとなり」という観阿弥の言葉を紹介したい。観阿弥は日本が誇る文化,能を確立した人物であり,長男の世阿弥がまとめた能楽論「風姿花伝」(花伝書)は広く読まれている。この中にある「秘すれば花」のくだりは,秘することが大事で,それによって感動をよぶという意味で説明される。「風姿花伝」が秘伝書であったことも興味深い。

ここでいう「花」,とは,感動を指す。感動という心の動きは,秘密にされるところから生まれる。秘密の状態を経て,それが明らかになったときに,感動が生まれるのだ。つまり,秘密の状態を共有しないと,感動は生まれない。いかに秘密の状態を共有するかが重要になる。

思えば,理学がまさにそうである。知られてない物事に取り組み,自然の理の一端がわかったと思うとき,すごい,面白い,と感動が生まれる。何が知られていないのか,秘せられたこと,それを共有することが必要だ。つまり,その研究の背景や歴史,なぜ自分たちはこの科学に取り組んでいるのかを十分に伝えることが重要なのである。

科学の感動を伝える際のポイントは

  • 研究の背景・歴史を十分に伝え,共有する