クエーサーを狙うマグナム望遠鏡

吉井 讓(天文学教育研究センター)

図1 マグナム観測所の全景

手前のドームの中にマグナム望遠鏡が設置されている。右側のコンテナは観測室で,右端の支柱は気象モニターである。左後方にマウナケア山頂が見える。

図2 ドーム内に設置された口径二メートルのマグナム望遠鏡

Spec
主鏡口径 202cm
主鏡 f 比 1.75
合成 f 比
光学系 リッチークレチアン式
視野 33.3分角
架台形式 経緯台
駆動方式 フリクションドライブ
絶対指向精度 2秒角
追尾精度 0.3秒角 5分角内
結像性能 80% 0.6秒角内
焦点 ベントカセグレン式

図3 活動銀河の中心付近の想像図

中心核領域からは太陽の数兆倍にもおよぶエネルギーが放出されており、それを取り囲んでダストがドーナツ状に分布すると予想される。

このドーナツ構造のスケールは銀河本体のおよそ百万分の一に相当する。中心には太陽の数億倍の巨大ブラックホールがあり、その周りの円盤から物質が落ち込むときに開放される重力エネルギーが活動銀河の莫大なエネルギーの出どころと考えられている。

図4 近傍の活動銀河NGC4151(約5000万光年の距離)の可視Vバンドと近赤外Kバンドの変光曲線。2001年1月に試験観測を開始してから約200日間のデータに基づく。

図5 近傍の渦状銀河M74(約2600万光年の距離)に出現した超新星2002apのUBVRIJHKバンドの変光曲線。2002年1月末の爆発直後から約40日間のデータに基づく。

ハワイ島の西隣に、ひょうたんの形をしたマウイ島はある。広さはハワイ島の五分の一ほどで、ちょうど佐渡島を二つ合わせたぐらいの大きさである。ひょうたんの大きなほうは、ハレアカラという富士山より少し低い火山からできている。頂上には巨大な火口原があり、一九六〇年代にNASAの宇宙飛行士の訓練がここで行われたといわれ、また映画『二〇〇一年宇宙の旅』のロケーションが行われた場所とも聞く。

このハレアカラ山頂に東京大学のマグナム望遠鏡はある。口径二メートルの光学望遠鏡で、国立天文台の巨大望遠鏡「すばる」の八メートルとは比較にならないが、それでも日本では二番目の大きさである。マグナムはモニター観測専用で、その種の望遠鏡としては世界最大級を誇っている。ターゲットにしている天体はクエーサーなど、星にしか見えないが、実は極めて狭い中心核領域から莫大なエネルギーを放出している遥か遠方の活動銀河である。それらは数日、数週間、長いものは数年のタイムスケールの変光が重なって明るくなったり暗くなったりしている。その変光の様子を紫外、可視、赤外で克明に記録する世界に例のない専用望遠鏡である。

最先端の撮像装置でも残念ながら空間分解能には限界がある。そのため、クエーサーの心臓部は依然としてベールで覆われているが、そこにはダスト(塵)が存在すると予想される。中心から出た紫外線を吸収したダストは約一五〇〇度の融解温度を越えると溶けてしまい、ドーナツ状に分布する。ドーナツの穴を通り抜けて中心から私たちのほうに向かって放射された紫外線や可視光線はそのまま観測される。一方、ドーナツのほうに向かった紫外線はそこで吸収され、融解温度に熱せられたダストから赤外線が放射される。つまり、紫外や可視の明るさが変わると、それがドーナツに到達する時間だけ遅れて、赤外で変光する。

まずは近傍の活動銀河NGC4151のデータを見ていただこう。可視で減光してから増光に転ずると、予想通りに、遅れて赤外で同じような変光が起こる。可視と赤外の変光曲線を時間軸に沿って横にずらすとほぼ完全に重なり合うのがわかる。この遅れは相対誤差5%の精度で47+2-3日と決定され、ドーナツの内径は光の速さでそれだけの日数を要する距離と見積もることができる。その場所でダストを融解温度に熱するに必要な中心光度を求め、見かけの明るさと比較すれば、この銀河までの距離がわかる。多波長、測光精度、観測頻度の三拍子が揃ったマグナムのモニター観測ならではの威力である。サンプル数が増えると、やがて距離と赤方偏移の関係からハッブル定数やΩやΛなどの宇宙パラメータの制限も可能となる。最終目標はこれである。

モニター観測は同じ天体を繰り返し見ることなので観測自体は単純である。それゆえ自動観測が可能で、望遠鏡はロボット化されている。夕暮れ時、ハレアカラではまるで映画の1シーンを見るかのように、自動的にドームが開き、彼方のクエーサーを望遠鏡が捕らえ、紫外や可視から赤外まで同時に撮像する。次々とクエーサーを捕らえ、明け方に観測を終了し、ドームを閉じる。世界で最も進んだこのハイテク無人観測所にはインターネットを通じて、機上からでもあるいは宿泊先からでも、世界中いたるところからアクセスすることができる。望遠鏡が正常に作動しているかどうかを監視するだけでなく、何か不具合が起こったときには遠隔制御によって調整することもできる。

突発現象の報を受けたときは、観測スケジュールに割り込み、追加観測を指令することも可能である。実際、私たちは二〇〇二年の一月末に出現した超新星を爆発直後から紫外、可視から赤外まで八種類の波長で同時に観測し、その明るさの変化を一年にわたって追いかけた。マグナム望遠鏡が多波長カメラを備えたモニター観測専用の望遠鏡だからできたことで、即座に対応できるという点で比類のない観測施設となっている。目的はあくまでもクエーサーの観測にあるが、はからずも超新星の出現によって、もう一つ、別の面で威力を発揮することとなった。

ここまで到達するにはさまざまな苦労があった。しかし終わってみると全てよしということで、一つ一つがいい思い出であり、いい経験となった。今後のマグナム望遠鏡からもたらされる新しい結果が非常に楽しみであると同時に、今後に続く種々の望遠鏡計画に声援を送りたい。