見えない火山ガスを可視化する

森 俊哉(地殻化学実験施設 准教授)

表紙写真

図:スペイン・テネリフェ島の火力発電所での測定(2010年6月)。左図は,火力発電所のビデオ画像。排煙はほぼ透明で,ほとんど排出していないように見えた。四角部分が可視化画像の位置に対応。右図は,可視化した二酸化硫黄カラム量分布イメージ。煙突から二酸化硫黄を排出している様子がわかる。

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裏表紙上図

表紙図:桜島火山で可視化した火山噴煙中の二酸化硫黄。上図は可視化装置で得られた噴煙中の二酸化硫黄カラム量分布。下図は同火山のデジカメ画像。噴煙は透明で右方向に流れていた。

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裏表紙上図

裏表紙上図:メキシコ・ポポカテペトル火山での観測の様子(2008年11月)

裏表紙下図

裏表紙下図:イタリア・ストロンボリ火山での観測の様子(2010年5月)

人の目に見えないものを見えるようにすることは,理学研究で利用される常套手段のひとつであり,これによりさまざまな新しい情報が得られる。 火山学の分野でも,人の目には透明な火山ガスを定量的に可視化することが可能となってきた。

火山ガスのほとんどは水(水蒸気)で,そのほかに二酸化炭素,二酸化硫黄,塩化水素,硫化水素などを含んでいる。 これらは,いずれも人の目には無色透明である。火山ガスの放出率は,地下にあるマグマの状況を反映して変化するので,放出率をモニタリングすることで火山の地下の状況を知ることが可能である。 これまで火山ガス放出率は,望遠鏡を装着した紫外分光計を用い,望遠鏡の視野方向にある二酸化硫黄のカラム量を遠隔測定することで求められてきた。 カラム量とは,ガス濃度を視野方向に積分した量を表す値である。 二酸化硫黄を用いるのは,測定で使用する近紫外波長域(240~320 nm)に強い吸収をもつだけでなく,大気中の濃度が水や二酸化炭素に比べるときわめて低く,分光測定が容易だからである。 これまでの紫外分光計を用いた装置では,視野方向1点の二酸化硫黄カラム量しか測定できないので,火山からの放出率を求めるには噴煙をスキャンする必要があり,放出率は数分から数十分の時間間隔でしか測定できなかった。 噴煙中の二酸化硫黄を定量的に可視化してイメージとして一度に測定できれば,二酸化硫黄放出率を高時間分解で測定できるだけでなく,噴煙の挙動も明らかにできるというのが定量的可視化手法開発の動機である。

二酸化硫黄の可視化手法といっても,原理は至って簡単である。紫外光に感度のあるCCDカメラで,二酸化硫黄の吸収帯に当たる波長(~310 nm)だけを撮像し,光の吸収量から二酸化硫黄量を算出する。 実際は,エアロゾルの影響などを取り除くため,二酸化硫黄の吸収帯からずれた波長(~330 nm)のイメージも同時に撮像し,これら2波長のイメージを処理することで,二酸化硫黄カラム量分布イメージを求めている。 こうして開発された可視化装置を用いて得られた桜島火山の二酸化硫黄のカラム量分布イメージが表紙画像(上)である。 表紙画像(下)には同時刻のデジカメ画像も合わせて示した。 この日は,火山ガス噴煙は人の目に透明であったが,可視化したイメージを見るとわかるように,二酸化硫黄を含んだ噴煙が山頂火口から右方向に流れている。 こうしたイメージが複数枚あれば,噴煙中の二酸化硫黄の挙動がわかると共に,二酸化硫黄放出率を測定することができる。 この可視化手法により,放出率の測定レートは約1Hzまで飛躍的に進歩した。 また,面的にカラム量分布をとらえることができるようになったため,これまで難しかった噴火やガス噴出現象に伴うガス量の定量も可能になった。 現在は,可視化技術の特性を生かし,日本の火山だけでなく海外の火山でも観測を実施し(裏表紙写真),火山からの脱ガス機構の解明を目指し研究を進めている。

あたりまえのことだが,この可視化技術は,火山だけでなく,工場などからの二酸化硫黄排出状況の測定にも使用できる(図)。 海外では,脱硫装置がついていない火力発電所が現在でもあるようで,二酸化硫黄が煙突から排出される様子を測定できる場合もある。 東京近郊の火力発電所でも,この可視化装置を用いて測定してみたことがあるが,こちらは脱硫装置がきちんと稼動していたようで,(残念ながら??)二酸化硫黄の可視化はできていない。