高速高分解能ライブ顕微鏡

中野 明彦(生物科学専攻 教授)

図1

図1:高速高感度レーザー走査共焦点顕微鏡システム。スピニングディスク共焦点スキャナ(ニポウディスク方式ともよぶ)は,円盤に約20000個のピンホールを開けたピンホールアレイと,そこにレーザー光を集光するマイクロレンズアレイからなるスピニングディスクを高速(1500-10000 rpm)で回転し,同時に約1000本の点光源を試料上でラスタースキャンする。蛍光は,同じピンホールを戻り,ダイクロイックミラーで分光された後,高感度HARPカメラで観測される。1個の点光源を,ミラーを機械的に動かすことによって走査する一般的な共焦点法に比べ,はるかに高速であることに加え,強い光源が1ヶ所に集中しないために,試料へのダメージや退色の問題が少ないこと,また光軸が全く動かないために,共焦点像を実像として観察できる,等々の多くの利点をもつ。

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表紙写真

表紙写真:達成された高い空間分解能。生きたままの酵母細胞のゴルジ体を緑と赤の2種類の蛍光タンパク質で標識した膜タンパク質で可視化し,3次元構築したムービー(3D動画)の1コマ。バーは100 nm。直径50-60 nmの小胞や細管構造が見えている。酵母細胞の大きさは,直径約5 mmである。ムービーをご覧になりたい方は,研究室HPの画像ライブラリーへどうぞ

裏表紙写真

裏表紙写真:2004 年に完成したプロトタイプ機。488 nm と568 nm のレーザー光をスピニングディスク共焦点スキャナで1000 本のビームに分け試料に同時入射し,励起されたGFP 等の蛍光タンパク質が発した微弱な蛍光を,ダイクロイックミラーで3つの波長領域に分光し,イメージインテンシファイアで増感して超高感度HARP カメラで検出する。対物レンズに無振動型高速ピエゾアクチュエイターを設置し,Z軸方向の画像スタックを高速で取得可能である。現在はさらに高仕様化され,理研基幹研(和光市)に設置されている。

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クラゲの光るタンパク質GFP(green fluorescent protein)は,生物科学を大きく変えた。GFPの偉大な点は,融合遺伝子の導入により,生細胞,生体内の狙った場所に蛍光プローブを発現できることにある。さまざまな色の類縁タンパク質が開発され,生細胞を自由自在に多色標識することができる時代になりつつある。いっぽうで,これらのプローブを生かすためには,顕微鏡の側の進歩もひじょうに重要であった。

私は1997年,生物科学専攻の助教授から理化学研究所に職を得,新しい研究室(現在兼務)を主宰することになったころから,当時発表されたばかりのGFPを用いて,細胞内の小器官の間をさまざまなタンパク質がどのように運ばれるかを観察したいと考えていた。直径50-60 nmという小さな膜小胞に乗ったGFPを追いかけるのは,当時世の中にあった顕微鏡では至難の業であったが,理研で物理や工学の専門家と日常親しく話すうちに,『ないんだったら作ればいいじゃないか』と思うに至った。長い話になるので大幅に端折ってしまうが,横河電機との出会いがあり,NHK技研との出会いがあり,また運良くNEDOの大型予算を頂いて,5年がかりで開発したのが,世界に誇る超高感度高速共焦点レーザー顕微撮像装置(裏表紙写真)である。

本機の基本的な特徴は,横河のスピニングディスク方式高速共焦点スキャナとNHKの高感度HARP(High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)カメラの組み合わせにある。いずれもすでに実用機が市販されていたが,その設計から全面的に見直し,背景光ノイズの徹底的解消,高性能ダイクロイックミラーによる3色完全同時分光,イメージインテンシファイアと超高感度HARPカメラの組み合わせによりCCD比約1万倍の増感を果たした検出系等々,企業の技術者とわれわれ研究者と間での数えきれないほどの相互フィードバックによって完成したのが,この装置である。2004年の完成時で,共焦点2次元30万画素で180 frames/secという高速撮像を達成した。これを用い,細胞小器官ゴルジ体の中をどのようにタンパク質が通過していくかに関する,世界を2分した大論争を解決したという話は,以前に本ニュースの「理学のキーワード」にも書いた(2009年9月号参照)。思わぬ副産物であったのが,この高速性と高感度を生かした精密計測による,空間分解能の向上である。Abbeの回折理論により,可視光領域では分解能の限界は200 nm程度とされてきた。しかし,われわれの顕微鏡では,オーバーサンプリングとデコンボリューションにより,3次元での空間分解能60 nmという,驚くべき成果が得られている(表紙写真)。いま,世界中で回折限界への挑戦が続いているが,ライブ3次元観察において,われわれの顕微鏡に勝るものはまだない。さらに現在も,さらなる高速化,高感度化,多色化に向けて進化を続けている。