重力波の計測

坪野 公夫(物理学専攻 教授)

図1

図1:(a)重力波計測の基本構成。Fabry-Perot共振器に重力波が入射すると共振周波数が変化する。重力波の効果は, 1 mの基線長が10–21 m程度変化するだけである。

(b)実際のレーザー干渉計では,数 kmの基線長をもった2組のFabry-Perot共振器を直交させて配置しマイケルソン干渉計を構成する。

図2

図2:真空場のゆらぎ(零点振動)は位相平面において等方的な分布をするが,非線形結晶を利用することによりこのゆらぎを図のようにスクイーズすることができる。スクイーズされた真空場をレーザー干渉計の出力ポートに入射することにより,光検出器出力にあらわれるショット雑音を抑制することが可能である。

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表紙写真:宇宙に飛び出した超小型重力波検出器SWIMμν

裏表紙写真1:低周波において超高性能防振性能をもつ本装置SASを用いてレーザー干渉計の鏡を懸架する。SAS は東大,カリフォルニア工科大学,ピサ大学の国際協力で開発された。

裏表紙写真2:レーザー干渉計自身を用いた高性能な能動防振システムSuspension Point Interferometer(SPI)。通常の振り子による防振が困難な1 Hz 以下においても,100 倍以上という高い防振性能を達成した。

裏表紙写真3:重力波検出は今や精密光学実験となっている。量子光学の手法を用いたスクイーズド光発生のための実験風景。

時空のひずみの伝播である重力波の一番の特徴は,きわめて相互作用が弱いことである。このことは,重力波計測の立場からすると非常にやっかいなことであるが,視点を変えると,電磁波を用いた天文学では得ることのできない情報が重力波から得られるという利点になる。一度生じた重力波は消えようがないため,宇宙誕生の直後の密度ゆらぎから作られた重力波の情報もまだ残っているはずである。また,その透過性の良さによって,パルサーや超新星爆発の核の様子が重力波観測をとおして明らかになると期待される。はるか彼方(~200 Mpc)で起きる2つの中性子星やブラックホールの衝突・合体によって作られる重力波は重要なターゲットである。

重力波計測の基本は,2つの自由な物体間の距離の変化を測ることである。その変化は,1 m離れた2枚の鏡の間の距離が,せいぜい10–21 m程度伸び縮みするだけである。これを検出するには,図1(a)に示すように2枚の鏡でFabry-Perot共振器を作り,そこにレーザーからの光を入射する。共振器から戻ってきた反射波には距離変化の情報が含まれているので,そこから必要な重力波信号を取り出す。このような計測にともなう原理的な雑音は,レーザー光の量子ゆらぎによってもたらされる。ポワソン統計をもった量子数のゆらぎは光検出器の出力にショット雑音としてあらわれ,他方では光子が鏡に与える力のゆらぎである輻射圧雑音としてあらわれる。レーザー光のパワーをP とすると,ショット雑音は1/√P に比例し輻射圧雑音は√P に比例するため,最小雑音状態が存在する。これが不確定性関係に対応する標準量子限界とよばれるものである。しかし近年の理論研究の進展によって,このような量子限界は絶対的なものではないことが明らかになった。たとえば前述のショット雑音の原因は,真空場のゆらぎが入射するためと解釈できるが,この真空場をスクイーズすることによりショット雑音を抑制できることが示された。われわれはスクイーズド真空場を作りそれをレーザー干渉計に応用する実験研究(図2および裏表紙)に取り組んでいる。そのほかにも計測を妨げる雑音には,レーザーの古典雑音,熱雑音,地面振動などがある。地面振動に関しては,本研究室において高性能防振装置SASおよびSPI(裏表紙写真)をこれまでに開発してきた。

重力波を測るにはFabry-Perot共振器を2本直交させて配置し,図1(b)のようなマイケルソン干渉計として用いるのが標準形である。重力波による信号の大きさはレーザー干渉計の基線長に比例するため,長基線のレーザー干渉計を用いて相対的に雑音を低減する。2000年に日本のレーザー干渉計TAMA(基線長300 m)が世界に先駆けて本格的な重力波観測を開始した。その後,アメリカのLIGO(4 km)やヨーロッパのVIRGO(3 km)が建設された。最近は,日本の次期計画であるLCGT(3 km)やadvanced LIGOによる重力波検出の期待が高まっている。また,宇宙にレーザー干渉計を作り,巨大ブラックホール同士の衝突やビッグバン直後のインフレーションの名残りをみようとする研究も始まっている。日本のDECIGO計画では1000 kmの基線長をもったレーザー干渉計を宇宙に作るが,その第一歩として昨年1月に超小型宇宙重力波検出器SWIMμν(表紙写真)の打ち上げに成功した。