物理学と人工知能を融合-知の物理学研究センター始動!

上田正仁(知の物理学研究センター長/物理学専攻 教授)

知の物理学研究センターが2018年12月1日に理学系研究科附属センターとして発足しました。本センターの目的は,物理学と人工知能(AI)の融合を通じて新しい学問のフロンティアを開拓することにあります。自然現象は,物理法則が生み出す膨大な情報がモザイクのように複雑に絡み合って成立しています。この認識のモザイクを,物理学とAIの融合を通じて解きほぐすことで,究極的には,人間の知性が発現するメカニズムの解明に迫ることを目指します。

近年盛んに行われているAIの研究や利用では,おもにウェブ上の情報,自然言語,音声認識など,人間の脳が生み出すビッグデータが用いられています。これに対して,本センターは,物理法則が生み出すビックデータに関する研究を行います。素粒子物理学は基本対称性がデータを生成し,物性物理学は対称性の破れがデータを創発します。今や実験や計算機シミュレーションが大規模化・精密化し,それらが生む出す膨大なデータは人間が認識できる限界をはるかに超えています。通常は,研究者が経験と勘に基づいて本質的な情報を抽出しますが,膨大なデータの全体をAIで系統的に分析することで,従来の方法では認識できなかった自然現象を発見できる可能性が生まれています。さらに,繰り込み群や情報統計力学などの物理的手法を一般化することで深層学習が有効に働く原理を解明するなど, AI研究へのフィードバックも狙います。

このように,物理学とAIの融合から生まれる「知の物理学」は,物理法則が生みだすデータ構造に潜む本質的な情報を抽出するというタスクを通じて,物理学に理論, 実験,計算機シミュレーションに続く第四の研究のフロンティアを提供するものと期待されます。いっぽう,応用面での可能性 もあります。人間の脳が生み出す情報は,複雑系の物理が生むといえます。「知の物理学」の研究を通じて,機械学習の原理がひとたび理解されると,原理に基づいたパラメータの最適化が可能になり,脳機能の解明やAIが人間の知性を超えるシンギュラリティがいつどのように起こるかを予測するなど広範なAI研究でのブレークスルーにつながるものと期待されます。

理学部ニュース2019年1月号掲載

 


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【お知らせ】2019年2月1日 、東京大学基金に「知の物理学研究センター支援基金」が設置されました。私たちの日々の生活を含めた社会を大きく駆動する「知の物理学研究センター」の活動に、個人や企業の皆様から裾野広いご支援を賜りたくお願い申し上げます。

 

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