大学発の化学研究と地域活性化とのかかわり

石谷 暖郎(GSC 社会連携講座 特任准教授)

 

経済成長と所得格差のバランスが社会的な議論をよんでいる。急成長国並みの所得格差とまではいかないだろうが,先にあった与党総裁選でも争点のひとつとなった。この問題が現代日本の大きな課題となっていることは間違いなく,超高齢化社会を迎えるにあたり,人口減少の著しい地域社会の経済をどうやって興していくのかは,自然科学を研究分野とする者にも他人事ではない。

筆者はどちらかといえば出張は控えめなので,骨休めにと思って出かける個人的な旅行が地方に触れる場面である。ゆるキャラはやや食傷気味だが,最近では都心に置かれてあっても違和感のない地域ブランド商品に出会うことも多い。創意工夫と,ブランディングがなされた製品を見ると,成功規模は大きくはないにせよ,活性化が根付きつつあることを感じさせる。

いっぽうで,多額の税金投入に比せず,地域活性化事業に伸び悩みがあるケースも少なくないという記事も散見される。若い人の定着を促すため,地方大学を充実させる試みも数字的には効果が出ていても,地方の若い人が都心に「来にくくなる」要素が増えているだけ,との声もあるようだ。地元生え抜きの力で地域を何とかしようという取り組みは賛同するが,単に人の往来をコントロールするだけでは将来的な発展はなく,都会的思考で地域を支えるアイデアを創出することも重要だろう。

筆者は,ある競争的研究費の申請の準備をしている際に,国内の農業生産者の利益になるためのアイデア(もちろん化学研究の先にあるもの)を勉強する機会があった。工場でパーツを組み立てて仕上げる電気製品や自動車などと違い,種を撒いて作物に育てる農作物は,原料を仕込んで生成物に変える化学製品と共通点がある。すなわち化学で農業を支えることも可能であろう。これも良い動機付けとなり,勉強は興味深いものでもあった。申請の内容とは無関係だが,気づいたことを端的に表すならば,経済性や市場規模が重要となる中央での事業展開では,地域の,とくに小規模の生産者の利益につながりにくいという点である。

冒頭に戻るようだが,これは農業=地方という問題ではない。日本の出生数は減少し,今後大きな経済成長が,国内需要を満たすための大規模な工業製品生産に伴って起こることはないだろう。大企業の視点がグローバルな方向を向くことは当然だが,国内各地域で展開するスモールファクトリーを産官学一体となってより活性化する必要性を感じる。

コンパクト・マルチステップ化学合成装置(モデル機)

手前味噌で恐縮だが,筆者も属する研究グループの大きな構想のポイントのひとつに,オンサイト・オンデマンド化学品生産がある。上のような地域活性化と構想をこじつける気はないが,今夏がそうであったように,日本には自然災害が絶えない。農業生産者や地方製造業に与えた打撃や,エネルギー分断・必要物資輸送の分断のリスクを考えるたび,よりコンパクトで柔軟性に富んだ新しい生産システムの重要性を思う。

都心に限らず地方も,海外からの旅行客の方にとって魅力的であることは素晴らしい。インバウンド景気の充実も地域活性化の要因であるが,ぜひ「ものづくり」の現場から,地域経済を再生する一助となれれば幸いと感じる。

 

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理学部ニュース2018年11月号掲載



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