体内時計をコントロールするASK キナーゼ

深田 吉孝(生物科学専攻 教授)

吉種 光(生物科学専攻 助教)

 

 


概日時計(circadian clock)は個々の細胞の中で自律的に振動するいっぽう,外界の時刻情報を受けて調整され,地球の環境サイクルに適応している。われわれの研究室では,哺乳類組織由来の株化培養細胞に発光レポーター(人工的な時計の針)の遺伝子を導入し,概日時計による細胞リズムを可視化する実験を行なっている。具体的には,昼夜で発現量が大きく変動する時計タンパク質PER2にホタル由来のルシフェラーゼを融合させたノックインマウスを利用している。このマウスから調製した細胞では, PER2タンパク質の変動量に一致した生物発光リズムを検出することができる。このような概日リズムの可視化実験においてわれわれは,培地の浸透圧を上昇させると時計の周期は長くなり(図左),浸透圧を低下させると周期が短くなることを見出した。また,高い浸透圧のパルス刺激を30分間だけ加えると細胞リズムの位相が大きく変化した(図右)。そこで,さまざまな時刻にこの高浸透圧パルスを与えた結果,1日のどのタイミングで刺激を行っても,刺激後には同じ位相のリズムが観察された。つまり,時計がある時刻にリセットされることがわかった。

   
培養細胞における時計の可視化実験。培地の浸透圧を変化させると,時計の周期(左)や位相(右)が大きく変化する。  

この浸透圧による時計制御の分子メカニズムに迫るためにわれわれは,本学薬学部の一條秀憲教授との共同研究として, ASKキナーゼに着目した研究をスタートした。ASKキナーゼはMAP3Kキナーゼファミリーのメンバーで,酸化還元状態や浸透圧の変化を受容して細胞応答シグナルを誘導する重要な分子である。マウスやヒトにはASK1,ASK2,ASK3という3つの遺伝子が存在するが,これらをすべて欠損したノックアウトマウスから調製した細胞では,浸透圧変化に伴う時計の周期や位相のリセットが全く観察されないことを見出した。つまり, ASKは浸透圧の情報を時計へと伝達する鍵分子であることが判明した。生理的には酸化還元状態は昼夜で変化することが知られているが,この酸化還元状態の変化に伴う時計の制御にもASKが重要な役割を担うことが判明した。細胞内の酸化還元リズムこそ概日時計の起源ではないかという新しい仮説に対して本研究は分子的な裏付けを与え得る。最後に,光環境を変化させてマウスの行動リズムを解析した結果,行動リズムの光応答が著しく減弱していることを見出した。体内のASK活性を自在に操ることができれば,将来,時差ボケ解消薬が作れるかもしれない。

本研究は,K. Imamura et al ., PNAS,115, 3646-3651(2018) に掲載された。

(2018年3月20日プレスリリース)

理学部ニュース2018年月号掲載



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