原始微生物生態系が太古の地球を温暖に保った?

田近 英一(地球惑星科学専攻 教授)

尾崎 和海(ジョージア工科大学/ NASA ポスドク研究員)

 

 



地球では,生命が誕生して以来,ずっと温暖な気候が維持されてきた。過去の太陽は暗かったのに,なぜそのようなことが可能だったのか。この暗い太陽のパラドックスは,過去の大気二酸化炭素濃度が高く,その温室効果が日射量の低下分を補っていた,と考えれば解決できる。しかし,古二酸化炭素濃度は理論値より低いことが分かり,二酸化炭素に加えてメタンが重要な役割を果たしていたと考えられるようになった。ところが,メタンは大気光化学反応ですみやかに分解されてしまうため,高濃度のメタンが本当に実現可能であるのか,これまで不明だった。

私たちの研究グループは,大気中のメタン濃度を決めている仕組みに注目した。当時は,環境中に豊富に存在した水素や鉄などを利用する,酸素を発生しないタイプの原始的な光合成細菌が基礎生産を担っていたと考えられる。生産された有機物が分解されると,メタン生成古細菌の活動によりメタンが生成される。大気へ放出されたメタンは,大気光化学反応によって二酸化炭素と水素に分解される。このような,海洋微生物生態系,大気光化学反応系,生物化学循環および気候形成を考慮した地球システムモデリングによって,この問題の検討を行った。その結果,単独種の光合成細菌が基礎生産を担う生態系では温暖気候は実現できないが,複数種の光合成細菌が「共存」する生態系を想定すると,大気へのメタン供給率が非線形的に増幅され,温暖気候が実現されることが明らかになった。これは,生産されたメタンが水素に変換されて光合成に再利用されることや複雑な大気光化学反応系の非線形応答に起因したものである。

   
(上)太古の地球で想定される微生物生態系と物質循環。
(下)水素や鉄を利用する光合成細菌を一種類のみ考慮した場合には温暖気候の実現は困難だが,両者が「共存」している生態系の場合,メタン生成率が非線形的に増幅され(赤色矢印),温暖気候が実現される。

拡大


本研究から,原始的な光合成細菌の多様性が重要であり,水素と鉄などの温室効果を持たない物質の循環が太古の気候を決めていた可能性が明らかになった。暗い太陽のパラドックスの理解は,地球がなぜハビタブルな惑星であるのかを理解することにつながる。さらに,ここで想定した光合成細菌は酸素発生型光合成生物よりも原始的であり,宇宙ではより普遍的な存在である可能性もあることから,この知見は太陽系外地球型惑星のハビタビリティの理解にもつながると期待される。

本研究成果は,Ozaki et al., Nature Geoscience , 11, 55-59(2017)に掲載された。

(2017年12月12日プレスリリース)




理学部ニュース2018年3月号掲載

 

 

学部生に伝える研究最前線>

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加