生物世界を俯瞰する生物情報科学

岩崎 渉(生物科学専攻 准教授)

 



自然界には,さまざまな環境に対応できる「ジェネラリスト」戦略をとる生物がいるいっぽうで,特定の環境に特化した「スペシャリスト」戦略をとる生物もいる。このことは,生物が環境の間で移動することを考えれば,比較的簡単に理解することができよう。すなわち,なるべく多くの環境に適応できるようになっておけば,「 旅先」の環境でも繁栄できる可能性が高まる(ジェネラリスト戦略)。いっぽうで,特定の環境に特化しておけば,他の環境から「旅して」くる生物に負けずに,長く繁栄できる可能性が高まる(スペシャリスト戦略)。ところが,個々の生物や生態系を対象とした研究はあっても,一般にどちらの戦略が有利なのか,そして,なぜ2つの戦略をとる生物が共存するのか,といった根本的な疑問に対する俯瞰的な解析はこれまで行われてこなかった。

近年の生物学では,計測装置の大幅な機能向上により,膨大なデータに基づいた生物情報科学的解析(バイオインフォマティクス解析)を行うことが可能になってきた。とりわけ,地球上のあらゆる環境に存在し,生態系の根本を支えている微生物については,環境中に生息する微生物群集全体のDNA配列解析を行う微生物群集シーケンス(メタゲノムシーケンス・アンプリコンシーケンス)法が広く行われるようになり,世界中の研究者によって多様な環境についての膨大な微生物群集データが蓄積されつつある。

   
「ジェネラリストによって駆動される進化」の概念図。ジェネラリストの微生物が多様な環境に進出し,種分化するとともにスペシャリストの微生物へと変わっていく。 

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私たちの研究室では,こうした膨大なデータを用いた生物情報科学的解析によって,微生物の生存戦略に関する一般的な特徴を明らかにするべく研究を行った。さまざまな環境にわたる微生物群集データを収集・整理した上で,2つの状態の間を確率的に行き来しながら生物が進化する「2状態種分化絶滅モデル(BiSSEモデル)」とよばれる数理モデルを用いた進化解析を行った結果,ジェネラリストの方が絶滅率に対して高い種分化率を持ち,生物進化の過程で子孫を繁栄させる上で有利であることが明らかになった。この結果は,微生物生態系において「進化がジェネラリストによって駆動されている」ことを示唆している。

では,それならばなぜ,微生物はジェネラリストばかりにならないのだろうか?今回の研究結果からは,ジェネラリストが進化の過程でスペシャリストに変わる速さの方が,逆の速さよりも大きいことも明らかになった。つまり,ジェネラリストは有利ではあるけれども,「ジェネラリストであり続けることが難しい」のだ。それぞれの環境における厳しい生存競争に勝つために,ジェネラリストはスペシャリストにならざるを得ないのかもしれない。

本研究は,S. Sriswasdi etal. ,Nature Communications , 8, 1162(2017)に掲載された。

(2017年10月30日プレスリリース)




理学部ニュース2018年3月号掲載




学部生に伝える研究最前線>

 

 

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