河川水中の放射性セシウムの水への溶けやすさ:
チェルノブイリと福島の違い

高橋 嘉夫(地球惑星科学専攻 教授)

 


東日本大震災の結果生じた福島第一原発事故により,セシウム(Cs)などの放射性核種が環境中に放出され,依然として多くの方々が深刻な影響を受けている。また,今後人類がどのようにして持続可能なエネルギーを確保していくのかの道筋も不明確なままである。このような中で,福島第一原発事故の原因や放出された放射性核種の移行挙動を解明し,それを人類全体で共有することは,世界に対して日本が負った重要な使命ともいえる。

放射性Csは,雲母や粘土鉱物などの層状珪酸塩の層間で安定な錯体(内圏錯体)を形成するため,大気から降下後は,土壌表面に強く吸着される。これらは,降雨などの浸食により河川に流入し,海洋に運搬される。そのさい,河川中で溶けやすいと海洋に放出されやすく,また生物への移行の程度も大きくなる。天然水中の微量元素の溶存濃度は,水中の微小な固体(懸濁粒子)と水の間での溶解- 吸着平衡で決まる場合が多く,放射性セシウムの場合には,層状珪酸塩が多ければ溶存濃度が低くなる。

   
大気から降下したセシウムの環境中での移行挙動とそれを支配する因子の模式図

拡大


福島の代表的河川である阿武隈川では溶存セシウムの割合は30%以下と低いが,チェルノブイリ原発事故時に近傍のプリピャチ川で観測された溶存セシウムの割合は70%以上と高かった。この違いを明らかにするために,われわれはこの2つの河川を調査し,回収した懸濁粒子を放射光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)法や走査型透過軟X 線顕微鏡(STXM)で調べた。その結果,前者ではCsの吸着種として内圏錯体の割合が高いが,後者では水和イオンとして吸着される割合が高いこと,また後者では懸濁粒子中で粘土鉱物と有機物(おもに腐植物質などの天然高分子有機酸)が複合体を形成している割合が高いこと,などが分かり,これらが2つの地域でのCsの溶けやすさの差を生んでいる。このうち腐植物質は,粘土表面に吸着し,セシウムの層間への吸着を妨げることで,結果的に溶存セシウムの割合の増加に寄与する。

2つの地域の違いは,周辺の地質・土質の違いに起因する。チェルノブイリ周辺の土壌は有機物含量が多い泥炭であり,地質はカルシウム(Ca)が多い炭酸塩岩に卓越する。そのため,河川中の溶存有機物濃度は福島の10倍以上である上,高いCaイオン濃度は,粘土鉱物と有機物の複合体の生成を促進する。いっぽう,福島では風化花崗岩が主要な地質で,粘土鉱物が多く生成する。これらの地質や土質などの周辺環境の違いが,河川中でのセシウムの吸着反応に影響を与え,最終的にはセシウムの挙動に違いを生みだす。福島で懸濁粒子への吸着種が安定であることは,セシウムの溶存濃度を下げ,生態系への移行や海への流出を低下させる方に働くと考えられる。また,このような環境中での物質移行の理解には,地質・土壌・化学・生態系などの総合的な知識を基にした考察が必要なことも本研究から理解される。

本研究成果は,Y. Takahashi et al . , Scientific Reports , 7, 21407(2017)に掲載された。

(2017年9月29日プレスリリース)

理学部ニュース2018年1月号掲載

 

 

学部生に伝える研究最前線>

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加