重力波初検出の意義:新たな天文学の幕開け
安東 正樹(物理学専攻 准教授)

2017年のノーベル物理学賞は,重力波の初検出を実現した米国の重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)プロジェクトの初期を主導した3氏に与えられることが決まった。本稿では,今回の成果の科学的意義について説明する。

物理学者アルバート・アインシュタインは, 1915年に一般相対性理論を構築した。これは,それまでの重力の概念を一変し,重力を「時空のゆがみ」として解釈したものだった。重力は,ニュートンの万有引力の考え方のような遠く離れた物体に瞬時に重力を及ぼす「遠隔力」ではなく,時空という存在を介して「近接力」として働くと解釈したのである。その翌年,アインシュタインは「重力波」の存在を理論的に導く。物体が激しく運動すれば,周囲の時空のひずみが時間的に変動し,それ3は波として光の速度で伝搬する。これが重力波である。重力波は空間の2点間の距離を変化させる。ただし,その量は,典型的には10-21程度のひずみ(無次元)よりも小さい。これは,地球と太陽との間の距離を水素原子1個分伸び縮みさせる程度のひじょうに小さな量であり,アインシュタイン自身もその検出は現実的ではないと考えていた。

今回の受賞者の1人のレイナー・ワイス氏は, 1970年代にレーザー干渉計方式の重力波検出器の基本概念設計を取りまとめた。これを基礎として,今回の初検出を達成したLIGOプロジェクトが1994年に立ち上げられた。その際,キップ・ソーン氏は重力波を発生する天体現象の理論研究, バリー・バリッシュ氏は大規模プロジェクトの主導において大きく貢献した。初期のLIGOによる観測運転では重力波信号はみつからなかったが, 2015年にその性能を向上させた改良型LIGO(アドバンスト・ライゴ)が本格的な観測運転を開始した直後に最初の重力波信号が検出された。アインシュタインが理論的に存在を予言して100年を経て,ようやく重力波初検出が成し遂げられたのである。その観測結果は,一般相対性理論の予測とよく一致するものだった。一般相対性理論は,これまで多くの検証実験・観測をすべてクリアしてきた。重力波の直接検出は残された大きな検証課題であり,今回の初検出は,それが成し遂げられたという意義がある。

2つのブラックホールが互いに向かって落ち込んでいくときに放射される重力波を示したイメージ図。
出典:LIGO/T. Pyle(https://www.ligo.caltech.edu/images)

さらに大きな意義は,人類が宇宙を観測する新たな手段を手に入れたということである。従来の宇宙観測はおもに電磁波・高エネルギー宇宙線・ニュートリノなどによって行われてきた。重力波はそれらとは全く異なった情報をもたらしてくれる。重力波には質量の激しい運動などによって放射され,物質に対してひじょうに高い透過力をもつ,という性質がある。したがって,電磁波などでは直接観測することができない,高エネルギー天体現象の中心部や初期宇宙の観測も期待できる。実際, LIGOの初観測によって,太陽の約30倍という質量の大きなブラックホールが存在すること,それらが連星系をなしていることなど,すでに新しい発見がもたらされている。またその後には,連星ブラックホール合体3例に加えて,連星中性子星合1例からの重力波も観測されている。この連星中性子星合体の際には,電磁波対応天体が同定され,さまざまな波長の電磁波での追観測も実現されており,短ガンマ線バーストの起源や,宇宙における重元素の起源に対する知見が得られている。新たな「重力波天文学」はすでに幕を開けているのである。今後,東京大学が主導している国内の重力波望遠鏡KAGRAも含めた観測で,ブラックホール,高密度天体,銀河の成り立ち,さらには宇宙の成り立ちなどへのさらなる科学的知見を得ることが期待できる。

 

理学部ニュース2017年11月号掲載

 


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