特別記事:2017年ノーベル物理学賞 



ノーベル物理学賞2017は,LIGO(ライゴ)検出器と世界初の重力波観測への貢献に対し,マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)のレイナー・ワイス(Rainer Weiss)名誉教授,カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)のバリー・バリッシュ(Barry Clark Barish)名誉教授とキップ・ソーン(Kip Stephen Thorne)名誉教授の3名に授与されることが決まりました。この世界初の重力波検出には,東京大学の研究者の努力もまた,大きく貢献しています。本特集では,ノーベル物理学賞を受賞予定の「重力波初検出」の解説と,重力波とは何か,その背景や意義,そして東京大学大学院理学系研究科の今後の重力波研究の展望をご紹介いたします。
(広報誌編集委員会)

 

 

2017年度ノーベル物理学賞が重力波初検出に
横山 順一(ビッグバン宇宙国際研究センター 教授)

2015年9月14日9時50分45秒頃(協定世界時)に,アメリカのレーザー干渉系型重力波検出器(Laser Interferometer Gravitational wave Observatory, LIGO)が,太陽質量の約36倍と約29倍の2つのブラックホールが合体したことによる重力波を,人類史上初めて直接検出した。この重力波初検出を牽引した3人の研究者に2017年ノーベル物理学賞が授与されることになった。受賞者は,マサチューセッツ工科大学のレイナー・ワイス名誉教授,カリフォルニア工科大学のバリー・バリッシュ名誉教授と同じくキップ・ソーン名誉教授の3名であり,ワイス博士に二分の一,残りの半分がバリッシュ博士とソーン博士に共同で授与されることになった。受賞理由は,「LIGO検出器と重力波観測に対する決定的な貢献」である。

一般相対性理論に重力波という光速で伝 わる波動が存在することは, 1916年にアインシュタイン自身によって示されているが, その初の直接検出は,アメリカ・ワシントン州ハンフォードと,ルイジアナ州リビングストンにある,2台のadvanced LIGO(改良型LIGO)重力波検出器によってなされ た。重力波はまず,リビングストンの検出器に到達,その約7ミリ秒後,3,000kmほど 離れたハンフォードの検出器に到達した。 その後の解析によって,この信号は13億光年ほどの距離にある太陽の約36倍の質量 をもつブラックホールと,太陽の約29倍の質量をもつブラックホールが合体したことによるものであることがわかった。合体時には太陽の約3倍の質量に相当するエネルギーが重力波によって放射され,ピーク時には約4x1049ワットものエネルギーが重力波として放射されたことも判明した。0.2秒ほどの短い信号であるが,一般相対性理論から期待される波形とよく合致していた。7ミリ秒隔てて同じ形の信号が二つの検出器でキャッチされたことが,本物の重力波である何よりの証拠である。

本研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センターのキップ・カンノン(Kipp Cannon) 准教授はカナダLIGO研究チーム代表者 (当時)としてこの初検出に大きな寄与をおこない,彼が開発を主導した低遅延重力波探索ソフトウェアGstLALを用いること で,この信号と同様の信号がノイズによって発生する頻度は20万年に1回以下であることを明らかにした。同准教授は2015年に 東京大学着任後,わが国の重力波検出器KAGRAとLIGOの国際協力を推進してい る。また,国立天文台教授で東京大学大学院理学系研究科とフランスCNRS Virgoチームを兼担するラファエル・フラミニオ(Raffaele Flaminio)教授はLIGO検出器の鏡の制作に大きな貢献をし,現在KAGRA, LIGO,Virgoの三者の協力を進めている。



リビングストン(左)とハンフォード(右)にある改良型LIGO検出器で観測された重力波信号GW150914の重力波波形(青)と,一般相対性理論で期待される重力波波形(赤)。2つのブラックホールが合体してひとつになる最後の0.2秒ほどの重力波信号を検出できたことを示している。(https://losc.ligo.orgより改変して転載)

この初検出以降, LIGOとVirgoは観測を 重ねているが,アインシュタインが予言したとおり重力波が二つの偏光モードをもっていることを検証するためには,わが国のKAGRAの稼働が必須であり,その完成が待たれているところである。

なお,本稿作成に当たっては,カンノン研究室初代助教であり,2017年10月に大阪市立大学に栄転した伊藤洋介准教授の協力を得た。

  

 

重力波初検出の意義:新たな天文学の幕開け
安東 正樹(物理学専攻 准教授)

2017年のノーベル物理学賞は,重力波の初検出を実現した米国の重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)プロジェクトの初期を主導した3氏に与えられることが決まった。本稿では,今回の成果の科学的意義について説明する。

物理学者アルバート・アインシュタインは, 1915年に一般相対性理論を構築した。これは,それまでの重力の概念を一変し,重力を「時空のゆがみ」として解釈したものだった。重力は,ニュートンの万有引力の考え方のような遠く離れた物体に瞬時に重力を及ぼす「遠隔力」ではなく,時空という存在を介して「近接力」として働くと解釈したのである。その翌年,アインシュタインは「重力波」の存在を理論的に導く。物体が激しく運動すれば,周囲の時空のひずみが時間的に変動し,それ3は波として光の速度で伝搬する。これが重力波である。重力波は空間の2点間の距離を変化させる。ただし,その量は,典型的には10-21程度のひずみ(無次元)よりも小さい。これは,地球と太陽との間の距離を水素原子1個分伸び縮みさせる程度のひじょうに小さな量であり,アインシュタイン自身もその検出は現実的ではないと考えていた。

今回の受賞者の1人のレイナー・ワイス氏は, 1970年代にレーザー干渉計方式の重力波検出器の基本概念設計を取りまとめた。これを基礎として,今回の初検出を達成したLIGOプロジェクトが1994年に立ち上げられた。その際,キップ・ソーン氏は重力波を発生する天体現象の理論研究, バリー・バリッシュ氏は大規模プロジェクトの主導において大きく貢献した。初期のLIGOによる観測運転では重力波信号はみつからなかったが, 2015年にその性能を向上させた改良型LIGO(アドバンスト・ライゴ)が本格的な観測運転を開始した直後に最初の重力波信号が検出された。アインシュタインが理論的に存在を予言して100年を経て,ようやく重力波初検出が成し遂げられたのである。その観測結果は,一般相対性理論の予測とよく一致するものだった。一般相対性理論は,これまで多くの検証実験・観測をすべてクリアしてきた。重力波の直接検出は残された大きな検証課題であり,今回の初検出は,それが成し遂げられたという意義がある。


2つのブラックホールが互いに向かって落ち込んでいくときに放射される重力波を示したイメージ図。
出典:LIGO/T. Pyle(https://www.ligo.caltech.edu/images)

さらに大きな意義は,人類が宇宙を観測する新たな手段を手に入れたということである。従来の宇宙観測はおもに電磁波・高エネルギー宇宙線・ニュートリノなどによって行われてきた。重力波はそれらとは全く異なった情報をもたらしてくれる。重力波には質量の激しい運動などによって放射され,物質に対してひじょうに高い透過力をもつ,という性質がある。したがって,電磁波などでは直接観測することができない,高エネルギー天体現象の中心部や初期宇宙の観測も期待できる。実際, LIGOの初観測によって,太陽の約30倍という質量の大きなブラックホールが存在すること,それらが連星系をなしていることなど,すでに新しい発見がもたらされている。またその後には,連星ブラックホール合体3例に加えて,連星中性子星合1例からの重力波も観測されている。この連星中性子星合体の際には,電磁波対応天体が同定され,さまざまな波長の電磁波での追観測も実現されており,短ガンマ線バーストの起源や,宇宙における重元素の起源に対する知見が得られている。新たな「重力波天文学」はすでに幕を開けているのである。今後,東京大学が主導している国内の重力波望遠鏡KAGRAも含めた観測で,ブラックホール,高密度天体,銀河の成り立ち,さらには宇宙の成り立ちなどへのさらなる科学的知見を得ることが期待できる。

 

理学部ニュース2017年11月号掲載

 


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