筋のタンパク質ミオシン分子達は綱引きチーム

茅 元司(物理学専攻 助教)

 


筋肉は走る,跳ぶといった爆発的な力と速さを必要とする運動から,指先の動きや顔の表情のような繊細な動きに至るまでさまざまな動きを実現する高性能アクチュエーターである。繊細な動きも爆発的な力もサルコメアとよばれる筋細胞内の基本構造とその機能に帰せられる。このサルコメアでは,骨格筋ミオシン約300分子が集合したフィラメントが中央に位置し,周りをアクチンフィラメンントが囲う立体構造により,アクチン1本にはミオシン約80分子が相互作用できる。そこで,超高機能な筋肉の仕組みを紐解くため,ミオシン分子が集団になってアクチンと作用する際に初めて現れる機能をとらえ,その分子機構を明らかにする研究を行った。

分子機構の解明には,ミオシン分子集団中の個々の分子の運動をとらえる必要があるが,個々の分子の変位は小さくかつ速いため,高精度で高時間分解能の装置が要求された。開発した顕微鏡では微粒子の運動を10μsの時間分解能で0.3nmの精度で計測が可能となった。アクチンにビーズを結合させて光ピンセットで捕捉し,ミオシンフィラメントとの相互作用時の力を計測した結果,アクチンが5nm前後の変位で時折μsの時間間隔でステップ状に変化する様子が観測できた。これらのデータ解析から,負荷の上昇に伴い力発生のタイミングを同調させる分子数が増えていく可能性が示唆された.言い換えれば,綱引きにおいて,相手が強ければ一緒に力を出してくれる仲間が増える協力的な綱引きチームになることを示している。

   
筋肉の構造:筋線維,筋原線維,サルコメアからミオシンとアクチ ンに至る階層構造(左上段,図a)。光ピンセットを用いたミオシンフィラメントの力計測実験の概要および計測したビーズの変位波形。波形からアクチンはステップ状に変化していることが分かる(右上 段,図b)。無負荷では,各分子が独立してランダムに力発生しているが,負荷が増加すると同調して力を出すミオシン分子(赤色)の数が増えてくる。図の単純化のた め,ミオシン頭部1つだけを表記
している(下段,図c)。

大きさが数十nmしかないタンパク質が,負荷に応じて分子数を増やしかつ同調して力を出すといった巧妙な仕組みを備えていることに驚きを覚えた。それでは,その仕組みは何か?この疑問に答えるため,シミュレーションモデルを構築した。その結果,ミオシン分子には負荷の大きさ・方向によって力発生を起こす確率が変化する特性があり,この特性により負荷が増えると,より多くの分子間の力発生が同調してくる協同性が見えてきた。こうした分子機構は,心臓の収縮や細胞形態変化に関わる他のミオシンにおいても共通であるかもしれない。本研究では,ミオシン分子間の協同的な力発生機構を分子レベルで示すことに初めて成功し,筋肉が高性能アクチュエーターである仕組みが垣間見えてきた。1つの分子では想像できない機能が,分子が集合すると起きてくることは生命機能にとって本質的なものであろう。

本研究では,物理学専攻修士2年生の実験結果が分子メカニズムを紐解く切っ掛けとなった。タンパク質1分子計測はきわめて難しい実験への挑戦であるが,若さと気力溢れる学生なら必ず新しい発見を見つけることのできる手法であり,挑戦したい学生にはぜひ,ご参加願いたい。

本研究成果は,M. Kaya et al .,Nat.Commun.,8, 16036(2017)に掲載された 

(2017年7月6日プレスリリース)

理学部ニュース2017年11月号掲載



学部生に伝える研究最前線>

 

 

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