研究のintegrityを守る:再現性,抑止力,科学する心

塩見 美喜子(研究倫理推進室 理学系研究科委員/生物科学専攻 教授)

毎年9月第1週に催される本学イベント「研究倫理ウィーク」の一環として,理学部・理学系研究科では2017年9月20日(水)に「研究倫理セミナー」を開催した。分子細胞生物学研究所・白髭克彦所長にお越しいただき,御講演いただいた(講演タイトル「倫理と科学する心」)。分子細胞生物学研究所では,この数年の間に二件の論文不正問題が起き,マスコミも大きく取り上げた。事態は深刻で,同じ生命科学研究者としてきわめて遺憾に思う。研究所に課せられた喫緊の課題のひとつは,「過ちを二度とくりかえさない」ことであろう。実際,論文に用いた実験結果はすべて研究所のサーバーへのアップロード,保管を義務付けるなど,先導を切ってさまざまな取り組みがなされている。不正をしない,不正から程遠い研究者ほど,当人にとって無益な(不正を防ぐための)取り組みに時間を費やさなくてはならないという事実は皮肉としか言いようがない。負担がこれ以上増えないこと,そして今の取り組みが問題解消に十分生かされることを切に願う。白髭所長の「不正のある研究は再現性のない研究に含まれる。再現性に関して高いスタンダードが課せられるべき」という言葉には大いに賛同できた。また,「罰(punishment)と噂話(gossip)が不正の抑止力になる」という,人間味溢れる,粉飾のない意見にもうなずけた。研究のintegrity*を守るため,拝金主義,拝NCS**主義に陥らない様,各研究者が精神を戒めることの重要性を再認識する良い機会になった。

 

分子細胞生物学研究所の白髭克彦所長による研究倫理セミナーの様子

 

* integrity=高潔な,誠実な,そして不正のない完全な状態
**NCS主義=Nature, Cell, Science といった科学界のトップジャーナル。インパクトファクターがひじょうに高く,これらの雑誌に論文が掲載されると質の高い・優秀な研究者として認められる傾向がある。大きな研究費の獲得につながる可能性も高い。よって,多くの研究者がこれらの雑誌に論文が掲載されることを夢見るが,インパクトだけを狙ったあまり 身のない論文や,誇張しすぎた,ときには誤った見解を含む論文が掲載される,いわゆる「再現性の低 い論文」が少なからずあるのも事実である。不正をしてまで論文を掲載させようとする研究者も出現するため,社会的・倫理的問題となっている。

理学部ニュース2017年11月号掲載

 


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