「遺伝学-遺伝子から見た生物」

飯野 雄一(生物科学専攻 教授)


鷲谷いづみ 監修, 桂 勲 編
「遺伝学ー遺伝子から見た生物」
培風館(2017年)
ISBN 978-4-535-60340-0

大学の教養課程から専門課程にかけては学問分野の幅広い知識を効率よく取得する必要があり良い教科書の存在が重要である。生物学の分野では,これまで生化学や分子生物学の教科書は多く出版されてきたが,不思議なことに遺伝学の日本語の教科書は少なかった。そのような中,本書は日本学術会議が提示した参照基準に従い,鷲谷いづみ氏監修,桂 勲氏編集により執筆されたものである。編集において両氏が心がけたのは,量が多すぎないコンパクトな教科書とし,爆発的に発展を続ける遺伝学の分野を俯瞰できる教科書とすることであった。カラフルな教科書を見慣れた身には本書の素朴な装丁は物足りない気もするが,これは過度の経済的負担を掛けずに多くの学生が購入できるようにとの編集チームの配慮である。本書の内容は,生物学と遺伝学の歴史の解説から始まり,情報を担う単位としての遺伝子の基本的な概念, DNA複製・修復や遺伝子発現の機構などの基本的な生命の仕組みと進む。遺伝子操作,ゲノム科学などの解析方法も紹介されるので,読み進むにつれて広範な基礎知識を得ることができる。引き続き,細胞分裂の機構,エピジェネティクス,癌遺伝子,細胞分化,個体発生,学習記憶,個体集団の振るまい,人類遺伝などについて,遺伝学を駆使することによってどのように新たな知見がもたらされたが階層立てて楽しく学習できる。筆者はモデル生物を用いた発生や神経系の原理解明についての章を分担したが,しくみを解き明かす研究のやり方を分かってもらえるようにとの思いで執筆した。ともかく手軽に読めるところが利点なので,大学生のみならずさまざまな読者に勧めることのできる教科書である。

理学部ニュース2017年9月号掲載

 


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