理学部紹介冊子
史上最も熱い惑星が見つかるまで
成田 憲保(天文学専攻 助教) |
KELT-9bは国際研究チームKELTが発見した9個目の惑星である。KELTは,口径4.2cmというひじょうに小さな広視野望遠鏡をアメリカ合衆国と南アフリカ共和国の2ヶ所に設置し,太陽系外惑星が主星の前を通り過ぎる際に少しだけ主星が暗くなる「トランジット」という減光現象(いわゆる食)を探している。
トランジットによって惑星を見つけるには,ひとつの大きな関門がある。それは恒星同士が互いの前を通り過ぎる「食連星」も同じように暗くなる減光現象をおこすため,見つかったのが本物の惑星なのか,あるいは偽物の食連星なのかを改めて判別する必要があるという点である。ちなみにKELTの場合,見つかったトランジットの候補の実に98%程度が偽物であることがわかっている。
KELTにはトランジット観測経験のある世界各国の研究者やアマチュア天文学者が参加しており,トランジットの候補が本物の惑星か偽物の食連星かを判別する観測に取り組んでいる。その方法は減光現象を複数の色(波長)で観測して,その減光の深さがどの色でもほぼ同じかどうかを確認するというものである。この原理は,恒星は自分自身で光っているのに対し,惑星は光っていないため,食による減光に大きな色の依存性があれば食連星,ほとんど色の依存性がなければ惑星であると判別できるというものである。
筆者らはこのような判別を効率よく行うため,岡山天体物理観測所にある188cm望遠鏡に3 色同時撮像装置MuSCATを開発し,2014年12月から観測を行なってきた。今回発見されたKELT-9bはちょうど2014年に減光現象が発見され,筆者らは2015年8月にMuSCATで減光現象の観測を行い,その減光に波長依存性がほぼないことを確認した。その後,この惑星はKELTチームのメンバーによって軌道や質量,昼側の表面温度の測定などが行われ,2017年6月に英国の科学雑誌Natureで発見が発表された。
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主星KELT-9(左の青白い恒星)と惑星KELT-9b(右)の想像図。主星が高速で自転している(自転軸は図の水平方向)ためやや扁平になっていることや,惑星からの大気の流出が表現されている。(© NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC)) |
この惑星は昼側の表面温度が4,600Kという恒星の温度にも匹敵する温度となっている常識はずれの惑星である。このような高温の惑星大気はこれまでに観測された例がなく,今後の詳細な観測ターゲットとしてひじょうに面白い。
いっぽう,惑星形成という観点からすると, KELT-9bの発見は約10,000Kというこれまでで最も高温な恒星のまわりでもホットジュピターが形成されることを示した,惑星形成理論に対する重要な観測的知見でもある。KELT-9bが実在する最も熱い惑星になるのか,それともさらに高温の惑星の記録が塗り替えられるのかは,今後のトランジット惑星探しにかかっている。2018年3月には,ほぼ全天のトランジット惑星を探索するNASAの衛星TESSが打ち上げられる予定となっている。筆者らはMuSCATと,2017年にスペイン・カナリア諸島の1.52m望遠鏡用に新しく開発した4色同時撮像装置MuSCAT2を用いて,TESSの時代にさらなる面白い惑星たちを探していきたいと考えている。
本研究成果は,B. S. Gaudi et al . ,Nature , 546, 514(2017)に掲載された。
理学部ニュース2017年9月号掲載