巨大な関東地震は従来想定より頻繁に発生

安藤 亮輔(地球惑星科学専攻 准教授)

 


穴を掘って地層を調べる研究と聞くと,いかにも古めかしい研究に聞こえるかもしれないが,それが将来の巨大地震を予測するのに,ほぼ唯一の観測手段であると聞くとどうだろうか。力学的なモデルを使って系の将来を予測するとき,必要となるのは系の運動の過去の履歴(時空間パターン)のデータである。地震の場合,それを与えるのが地層に残された過去の地震の痕跡である。近年では,人工衛星を用いたリモートセンシングなど,地震観測の技術は飛躍的に発展したが,これら現代的観測のデータが得られているのはたかだか過去数10年分である。巨大地震のくりかえし間隔は,一般に100年から1000年のオーダーである。歴史記録も無いような過去の地震のデータを得ようとすると,地層の記録に頼るほかない。

地震の痕跡の内で,地層や地形に残りやすいもののひとつが,地震(断層のずれ)に伴う地表面の隆起である。海岸では,隆起により波打ち際の浅瀬が陸上に現れ,階段状の地形である海岸段丘が形成される。今回調査した房総半島の千倉地域には,1703年(江戸時代元禄年間)の巨大地震で形成された海岸段丘が存在している。元禄地震は, 1923年(大正)の地震よりさらに大きかった。元禄地震による段丘面の上位には,過去の同規模の巨大地震(元禄型関東地震)に伴って形成された3段の段丘の存在が認定されている。これらの段丘の年代から,過去には2000年ほどの間隔で巨大地震が起こったと推定されていた。しかし,段丘の形成年代を決める試料は,十分ではなかった。

   
神奈川県から千葉県東方沖までの領域のプレート境界では,大正の地震と元禄の地震など規模の異なる巨大地震がくりかえし発生してきた。(左上)。断層がずれ動くと地面が隆起し,波打ち際の地形は階段状の海岸段丘として,隆起時期は地層に残された干上がった貝の年代として記録される(右上)。調査地点では4段の海岸段丘の存在が知られていたが,今回われわれは新たな一段を発見(左下)し,それら段丘の形成年代が従来の推定値より約1000年以上新しいことを明らかにした。

段丘の形成年代は,その場所の地層に埋まっている貝化石などの放射性炭素年代測定によって推定することができる。正確な年代を得るためには,できるだけ多数の貝化石を採集する必要がある。しかし従来の研究では,川の侵食によって地表に露出した地層で採取した少数の貝化石で年代が推定されていた。今回われわれは,ちゅう密に14本のボーリング(掘削)調査を行うことで多数の貝化石を採取して,より正確な段丘年代を推定することに成功した。さらに高解像度の航空レーザー測量・解析を行うことで,新たな段丘も発見した。得られた結果は,国の施策にも反映されていた従来の常識を覆すものであった。段丘の形成年代が,従来値より約1000年以上若返り,その年代の間隔は最短500年となり,ばらつきも大きくなる傾向となったのである。このことは,元禄型関東地震が従来想定されているよりも高頻度で発生しており,そのくりかえしパターンも従来考えられていたほど規則的ではない可能性があることを示している。

本研究の成果には,地球惑星環境学科4年生の卒業研究が重要な役割を果たした。今後,われわれは野外調査地域を広げてより広範なデータを得るとともに,現象を再現できる物理モデルの構築を目指している。

本研究は,J. Komori et al ., Earth and Planetary Science Letters , 471, 74-84(2017)に掲載された。 

(2017年5月11日プレスリリース)

理学部ニュース2017年9月号掲載

 


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