生化学研究から金融
(ベンチャーキャピタリスト)への転身

片田江 舞子(株式会社 東京大学エッジキャピタル(UTEC))


PROFILE

東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻満期修了
(株)東京大学エッジキャピタル入社
博士(理学)
「日経ビジネス」誌が選ぶ「次代を創る 100人」に選出
日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞を受賞
2005年
2005年
2008年 2013年
2013年

 

 

ニューヨーク・ジャパンソサエティでの講演・パネルディスカッションに登壇する筆者

「科学技術の価値を見極め,事業化を通じてサイエンスとビジネスを橋渡しする仕事に挑戦したい」。この思いをもって2005年ベンチャーキャピタル(VC)の世界へ飛び込んだ。(株)東京大学エッジキャピタル(UTEC)に入社して12年目を迎える。UTECはアカデミアから生まれる技術を活用するベンチャーに投資をするVCである。入社して最初の仕事は東京大学の発明や技術を調査すること。そこで,東京大学理学系研究科(当時:先端研)菅裕明教授の特殊ペプチド技術と出会う。通常,生体内でペプチドが合成されるときには20種類のアミノ酸が利用されるが,それ以外の非天然アミノ酸を自由自在に組み込むことを可能にする技術である。東京大学の技術のマーケティングやライセンス活動を行う(株)東京大学TLOと共に菅教授の元に何度も足を運び,起業の相談を重ねた。私はVCの役割として,経営者の紹介や事業化の準備を進め,2006年に「(株)ペプチドリーム」が創業された。同社は,おもに疾患の原因となる物質に対して特殊ペプチドをスクリーニングして医薬品候補物質を探索し,これを製薬企業に提供する事業を展開。その後も事業サポートを行い2008年にUTECからの投資を実施し,監査役に就任した。同社は2013年6月東証マザーズへ上場, 2015年12月東証1部へ昇格上場,現在では時価総額3750億円(2017年5月30日時点)と企業成長を続けている。

これらの成果が評価され,2013年「日経ビジネス」誌が選ぶ「次代を創る100人」に選出され,2013年12月の分子生物学会キャリアパス委員会では菅裕明教授と共に「キャリアパスの多様性と可能性」に登壇させていただいた。同時期に日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞を受賞し,2014年に第一子を出産。夫赴任に伴いシンガポールでの育児休暇を経て,2015年よりUTECに復職。復職後初めてのニューヨーク出張では,歩き始めて間もない1歳の娘と夫の同行のもとニューヨーク・ジャパンソサエティとコロンビア大学ビジネススクールにて,日本のベンチャー業界の現状について講演を行った。ニューヨーク留学経験のある夫の全面サポートで実現できた実り多い仕事だった。家族の協力にはいつも感謝している。現在も,第二,第三のペプチドリームを見い出すべく,アカデミアから生まれた優れた技術を「ベンチャー投資」という手法により事業化に結び付ける活動をしている。

大学院時代は,生物化学専攻深田吉孝先生のご指導のもと,何度も挫けそうになりながらGタンパク質の脂質修飾に関する研究を行った。「 基礎研究とベンチャー投資」,一見すると接点が無いように思われるが,科学研究の進め方とビジネスの現場はひじょうに類似している。具体的には,研究を進めて論文を完成するまでに「仮説・検証・結果・総括」をくりかえす。仮説と異なる結果が得られた場合は,検証方法を見直したり,仮説そのものを見直したりする。大学院時代に鍛えられたこの思考プロセスは,成功するビジネスを熟考する際に日常的に使っている。深田先生の厳しく熱心なご指導のもと,このプロセスをしっかり教わったことに深く感謝している。ビジネスの現場に居ながら,最先端の科学技術に触れられる日々がとても楽しい。

理学部ニュース2017年7月号掲載

 

 

理学から羽ばたけ>

 

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